動揺するロシアの国内状況(海外通信・バチカン支局)

ロシアのプーチン大統領は9月21日、ウクライナ東部や南部で劣勢にあるロシア軍の軍事作戦の打開を図るために、部分的な動員(予備兵の招集)を可能とする大統領令に署名したことを明らかにした。現地の報道によれば、同国内の多くの都市で動員に反対する市民によって抗議デモが展開され、招集に応じることを拒否する青年たちが、国外への逃亡を試みているとのことだ。

揺れ動く国内状況を憂慮するロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教は22日、モスクワの大主教座聖堂で執り行った礼拝中の説教において、「あなたたちの軍務(招集)を、勇気をもって遂行しなさい」と発言し、招集に応じるようにとアピールした。さらに、「あなたたちの国家のために生命を捧げるなら、あなたたちは神の王国に入ることができ、栄光と永久の生命を得ることができる」と励まし、「ロシアは平和を愛し、戦争を望んでいないが、私たちはロシア人のみが知り得る方法で愛する故国を守る」と述べた。また、「世界の大部分の国々が、残念ながら、ロシア国民に反対する巨大な影響力の支配下にある」と主張し、「私たちというのは、軍隊を筆頭に目を覚まし、強靭(きょうじん)でなければならない」と鼓舞した。

ロシアから亡命し、パリの政治学院で教壇に立つセルゲイ・グリエフ教授は、動揺するロシア社会を「ロシアに吹く容赦なき風」と評し、「プーチン大統領にとっても、状況が複雑な様相を呈してきた」と分析する。なぜなら、国民からの抗議のみならず、招集を避けようとする多くの人々がロシアを去り、さらに、「ロシア権力の中枢においても、大統領の指導権を疑問視する動きがある」からだという。

ロシア外務省は22日、米・ニューヨークの国連本部で開催されている国連総会の合間に、セルゲイ・ラブロフ外相がバチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿と懇談したと明らかにした。ラブロフ外相は、パロリン国務長官に対し、ロシアのウクライナでの特別軍事作戦が「北大西洋条約機構(NATO)によるロシアの破壊、世界を分裂させる“十字軍”的な政策による東西間危機」であると説明。その上で、ウクライナの親ロシア勢力が、ドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソンの各州で企画した、ロシアへの帰属を問う住民投票は、「住民の正当なる自決権、自身の持つ市民制度、文化、宗教に沿って生活する権利」であると主張したとのことだ。

プーチン大統領は24日、兵役に関する刑法の数箇条を改定し、脱走あるいは、動員に応じなかった者に対しては5年から10年の刑期、戦場で敵に意図的に投降する者には10年未満、動員中や戒厳令下での脱走者には15年の刑期を言い渡すと定めた。また、ロシア軍に従軍する外国人志願兵に対しては、ロシア国籍の取得を容易にするとも定めた。28日からは、動員対象者の国外渡航が禁止されるとの報道もある。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)