自身を卑下し謝罪する教皇は強い勇気と謙遜の主――先住民指導者(海外通信・バチカン支局)

今年4月に、カナダの先住民「イヌイット」「メティ」「ファースト・ネーション」の代表者と同伴のカトリック司教たちで構成された「バチカン訪問使節団」の訪問を受け、面会した教皇(バチカンメディア提供)

ローマ教皇フランシスコは7月25日、カナダ先住民との癒やしと和解に向けた「悔い改めの巡礼」でカナダ西部マスクワシスを訪れ、同国連邦政府による同化政策に協力した寄宿学校の跡地であり、犠牲となった多くの先住民の子供たちの墓地がある「熊の丘」で、カナダ先住民に何度も「許し」を願った。

バチカンの公式ニュースサイトである「バチカンニュース」は翌26日、教皇のカナダ訪問を伝える記事の中で、教皇の謝罪を「昨日、『熊の丘』が『和解の丘』へと少し近づいた」と描写した。さらに、先住民「ファースト・ネーション」の指導者であるフィル・フォンテイン氏が、「世界で最も影響力のある公的人物である上、遠く離れた共同体から来た教皇が、寄宿学校の生存者や、彼らの家族に対し、自身を卑下して許しを願ったことはありふれた出来事ではない。教皇にとって強い勇気と謙遜さが必要だったと思うし、私にとっても特別な瞬間だった」と発言したと伝えた。

これに先立つ25日、カナダのジャスティン・トルドー首相も声明文を公表した。この中で、同国政府が寄宿学校制度の破壊的な行為による被害を修復するため、「真理と和解委員会」(TRC)を通して94項目の「活動計画」を採択したことを説明。「カナダ政府は、先住民の癒やしに向けた旅を支援し、真理と和解委員会が採択した活動計画を完全に実行していく」と約束した。

また、「先住民との和解が、全カナダ国民の責任である」と示し、「先住民に門戸を開放し、彼らの声に耳を傾け、分かち合ってゆく責任」を強調。「私たちの間にある違いを、障害としてではなく、学び、相互理解を促進し、行動を起こしていく機会としなければいけない」と呼びかけた。さらに、「カナダ全土の寄宿学校で何が起きたかを絶対に忘れてはならず、そうした出来事を再び起こしてはならない」「和解と癒やしの精神を通して、われわれは、先住民と全カナダ国民のために、より良き未来を構築していかなければならない」と訴えた。

同国東部ケベックに移動した教皇は27日、政府関係者、先住民の代表者、同国付け外交団と会見した。教皇は、参集者に向けたスピーチの中で、先住民が「創造と調和のあるビジョンに沿い、土地と環境の保全に注意を払い、創造主を愛し、他の生き物と共生するように」と人々に模範を示していたと明かした。そして、過去にカナダ政府とキリスト教が実行した植民地主義的な同化政策は、「先住民の生きた教えに対して、暴力で抗(あらが)っていった」と述べた。

さらに、西洋文明の到着点は、「創造(自然環境)のみならず、関係や時間をも搾取し、人間活動を有用性と利益という視点だけで判断する」「瞑想(めいそう)を評価する喜び、関係の純粋な味わい、共生の神秘主義を忘れ、疲労し、幻滅した社会」と指摘した。

その上で、私たちが今、本当に必要としているのは、「台頭してくる個人主義、性急な判断、まん延していく攻撃的な姿勢、世界を善人と悪人に分断する、そうしたことを避けるため、耳を傾け合い、対話していくこと」と主張。宇宙の調和と共生という先住民の持つ崇高な価値観を蹂躙(じゅうりん)し、非人間的な西洋キリスト教文明を強要した「当時の政権とカトリック教会の制度」に関して自身の「恥辱と苦痛」を再表明し、「多くのキリスト教徒たちによって実行された悪」に対する許しを願った。

また、2007年に採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」に言及し、「カナダ先住民とカトリック教会との間における関係の刷新」を望んでいると語った。一方、「植民地主義のメンタリティーに由来する苦と侮辱の歴史は、そう簡単には治癒できない」と警告し、「イデオロギーによる植民地主義」を例示しながら、「植民地主義は止(や)むことなく、特定地域において、変貌し、仮面を被(かぶ)り、身を隠す」と述べた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)