岸田首相がバチカンを訪問(海外通信・バチカン支局)

岸田文雄首相は5月4日、日本の首相としては約8年ぶりにバチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコと25分間にわたり懇談した。バチカンが公表した声明文によると、教皇と岸田首相は「友好的な雰囲気」の中で、国際諸問題、特に、「ウクライナ戦争に焦点を当て、対話と和平の緊急性を強調しながら、目的の達成に向けて、核兵器のない世界の構築を願った」とのことだ。

これに先立ち、バチカンの公式ニュースサイト「バチカンニュース」は、ローマ教皇庁科学アカデミーが、「核兵器を基盤に持たない集団安全保障体制の構築」に関する長文の宣言を発表したことを報じ、その内容を紹介した。宣言文は、教皇パウロ六世、教皇ヨハネ・パウロ二世、現教皇の核兵器廃絶に向けた言葉を要所で引用している。各国の元首に対しては、「国益という狭い見解を乗り越え、ウクライナ戦争を即刻に停止させ、平和的解決に向けたプロセスを開始するように」と主張。科学者に対しては、「兵器管理のための実践的な方法の開発」を訴えている。

さらに、世界の諸宗教指導者には、「この(核)問題が人間性に関わる重大な問題であることを説き続けていくように」と要請。各国の善意の人々に向けては、「“戦争は避けられない”という確信に対し、結束して戦っていくように」と呼びかけている。また、「国家間や国内で起きている重大な不平等、国家による近視的な野望や一方的な利益の追求、権力への渇望が、紛争の火種となり、世界大戦や核戦争へと導く可能性がある」と警鐘を鳴らした。その上で、「重大なる核の脅威」として、ウクライナ戦争中のロシアによる核兵器使用の威嚇とともに、他の国々やテロ組織による核兵器の保有や製造技術の獲得、多くの人々に影響を及ぼす、意図的・偶発的な原子力発電所の破壊、核廃棄物を使った爆弾の製造、戦場での(破壊力を限定した)戦略核兵器使用の可能性、偶発的または(ハッカーなどによる)情報操作を通した核爆弾の誤射などを挙げている。

世界では、ウクライナ戦争について、「ロシアの核抑止部隊に特別警戒態勢を発令」「核戦争となる第三次世界大戦に発展する恐れ」「ロシアは他国にない兵器を所有」「ロシアが核搭載可能なミサイルの模擬発射演習を実施」といった威嚇的な発言や行動が報道されている。岸田首相と教皇による核兵器廃絶のアピールは、さらに緊急性の高いものとなった。

同アカデミーは、人間の生存、尊厳性を持って生きること、幸せを希求することという自然権を重視している。宣言文では、「科学は、人間の繁栄、(自己の)実現、平和への努力を支援するために使われなければならない」と訴え、世界の集団安全保障体制を確立するための「9原則」を提示している。

世界の集団安全保障体制を確立するための「9原則」
・他の国家の領土や政治的独立を武力によって犯してはならない
・核、化学、生物兵器を含む、軍事対立を増強する可能性のある武力行使を紛争解決の手段としない
・世界の各地に散在する多くの難民に避難所と擁護を提供する
・核兵器の他国やテロ組織への拡散を防止する
・核兵器の先制不使用と軍縮に関する確認できる合意の促進
・核兵器のさらなる拡散を防止するため、より効果的な方法と手段を模索する
・核エネルギーの平和利用が核兵器の拡散に繋(つな)がることを防止する
・事故、誤算、無分別な行動によって誘発される核戦争の可能性を縮小するための具体的措置
・現存する軍縮原則を順守し、核兵器が役割を持たない集団安全保障体制を構築していく

(宮平宏・本紙バチカン支局長)