「教皇がプーチン大統領と会見する意向を発表」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
ローマ教皇フランシスコはこのほど、イタリアの日刊紙「コリエレ・デラ・セラ」のインタビューに応じ、「キーウ(キエフ)を訪問するよりは、モスクワに行き、プーチン大統領に会うことが先決だ」との見解を明らかにした。記事は、同紙5月3日付に掲載された。
インタビューの中で教皇は、「ウクライナ戦争の開戦日(2月24日)にゼレンスキー大統領に電話したが、プーチン大統領には連絡しなかった。昨年12月、私の誕生日に彼と電話で話したが、今回はしなかった」と明かした。ロシア軍による侵攻翌日の25日、駐バチカン市国ロシア大使館を訪問し、大使と懇談したことを振り返り、「世界に向けて明確なメッセージを発することが目的だった」と理由を説明。ウクライナ侵攻の動機を示すことを大使に求めるとともに、すぐに侵攻を停止するよう要請したと述べた。
そして、侵攻開始から20日後、バチカン国務省長官のピエトロ・パロリン枢機卿を通して、「モスクワで会談したい意向」を記したメッセージをプーチン大統領宛てに送付していたことを公表した。「クレムリン(ロシア政府)の指導者が、私に対して小窓を開けてくれることが必要だった」としつつも、「いまだ、プーチン大統領からの返事は届いておらず、待ち続けている。しかし、彼が今、私と会う可能性も、意思をも持ち合わせていないように判断できる」と話した。
また、北大西洋条約機構(NATO)による東欧での勢力拡大政策がウクライナ侵攻に与えた影響について、「(プーチン大統領の)怒りかはよく分からないが、(感情の爆発を)助長したとは言える」との見解を表明。さらに、欧米諸国によるウクライナへの武器提供の正当性に関して、「どう答えてよいかが分からない」としながらも、「確実に言えることは、ウクライナで(さまざまな)武器が実験されていることだ。ロシア軍は、戦車が有用でなくなり、他の武器(ミサイル、ロケット砲、爆弾など)を使った攻撃を考えている。戦争は、私たちが製造した武器を試すために存在する」との見方を明かした。そして、武器の取引は一部の人々にとって重要であり、中止を求める人が少ないことに憂慮の念を示し、軍備の増強や、新たな武器製造の増長に反対した。
ウクライナのカトリック教会と同国政府が強く望むキーウ訪問については、「キーウよりも、まずモスクワに行き、プーチン大統領に会わなければならない。しかし、私は一人の聖職者だ。何ができるのだろうか。プーチン大統領が門戸を開けてくれたら……」と述べた。
さらに、同大統領に対して強い影響力を持つロシア正教会の最高指導者・キリル総主教について、「彼と(3月16日に)40分にわたりビデオ会談を行ったが、前半で総主教は、ウクライナ戦争を正当化する理由を読み上げた」と説明。これを受け、「彼の声に耳を傾けたが、“私には理解できない”と伝えた」ことを明かした。そして、「兄弟である総主教、私たちは、国の侍者(ミサで神父に奉仕する少年)であってはならず、政治的言語ではなく、キリストの言葉で話さなければならない」と訴え、「平和の道を模索し、武器による戦火を停止させなければならない」とアピールしたと述べた。また、「総主教が、プーチン大統領の侍者となってはならない」と指摘した。
教皇は、6月14日にイスラエルにある聖都エルサレムでキリル総主教との2回目の会見を予定していたが、延期となった。教皇は、「総主教も同意しているだろう。現時点での面会は、さまざまな誤解を招く可能性がある」と理由を説明した。
また、4月21日にバチカンで、プーチン大統領に近い政治指導者と評されるハンガリーのオルバン首相と懇談したことに言及。この中で、「ロシアが、5月9日の(第二次世界大戦中のナチス・ドイツとの)戦勝記念日までに全てを終結させる意向であると聞いた」と述べた。しかし現在、戦火はドンバス地域だけでなく、南部のクリミア半島からオデーサに至る黒海沿岸にまで広がっていることに深い悲しみを覚えると述べ、「私たちは、戦争を停止させるためにあらゆる努力をしなければならない」と訴えた。
インタビュー記事の掲載直後、ロシアの報道官は「教皇とプーチン大統領の会見に関しては、何の合意も成立していない」と発表した。ロシア正教会モスクワ総主教区外務部は、「キリル総主教との懇談内容を明かした教皇の発言は、トーン(口調)が間違っている」と非難する声明文を公表した。キリル総主教は今も、「ロシアはどの国へも侵攻しておらず、(ウクライナを含む)ロシアの国境を守っているだけだ」という主張を繰り返している。