教皇とノーベル平和賞受賞者・ヤジディ教徒のムラド氏が懇談(海外通信・バチカン支局)

イラクの少数派であるヤジディ教徒で、2018年にノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏が8月26日、夫と共にバチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコと懇談した。同日、「バチカンニュース」が伝えた。

ムラド氏は14年、「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織がシンジャル山脈周辺(同国北西部)のヤジディ教徒の居住区を攻撃した時に捕虜となり、暴行を受け続けた。先の攻撃により6人の兄弟と母親を失ってもいる。その3カ月後に逃亡に成功し、ドイツに亡命したムラド氏は、以来、ヤジディ教徒たちが置かれている悲惨な状況を訴え、紛争下における女性への性暴力、人身売買に対して国際社会が結束して取り組むように求めてきた。7年前にISによって故郷のシンジャル地方を追われた約25万人のヤジディ教徒は現在、イラクのクルド人居住区で生活している。ムラド氏は16年、人身売買の被害者の尊厳を訴える国連親善大使に就任。18年にノーベル平和賞を受賞した。

一方、教皇は奴隷体験を記した自伝『私を最後にするために』を読んで心を揺さぶられ、イラク訪問(今年3月)を決意したと明かしていた。

今回で3度目となる二人の懇談後、ムラド氏は「ヤジディ教徒や他のイラクの少数派宗教の信徒たちに対する支援、そしてアフガニスタンでの悲劇的な状況に思いを馳(は)せ、女性や性暴力の犠牲者たちを守る必要性」について話し合ったと明らかにした。また、同日、ムラド氏はSNSで、「7年前に私たちの居住区がISの手中に落ちたのと同じ時期に、カブールがタリバンの制圧下に入った」と指摘し、「タリバンが女性の権利と自由を剝奪(はくだつ)しないように」と訴えていた。「世界が女性から目を離すと、女性の体に戦争を仕掛ける者がいる」からだ。

教皇は29日、バチカン広場での正午の祈りの席上、「アフガン情勢に対する深い憂慮」を表明し、「木曜日に(カブールで)発生した自爆攻撃で亡くなった人を悲しむ人たち、支援と擁護を求めている人たちの苦を共にする」と述べた。さらに、全ての人々に向けて、「助けを必要としている人々、特に女性と子供に対する支援を続け、対話と連帯が平和と友愛の双方をもたらすことができるように祈りを捧げてほしい」と促した。その上で、アフガニスタンの事態について、「カトリック教会の歴史は、われわれが無関心でいることができないと教えている」と指摘し、「全てのキリスト教徒たちが祈りと断食を実践することによって、神の慈しみとゆるしを乞うように」と呼びかけた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)