第38回庭野平和賞贈呈式 受賞者の昭慧法師(台湾)が記念講演 すべての生命が尊ばれる世界を願い

第38回庭野平和賞が台湾の尼僧・昭慧法師に贈られた ©佛教弘誓學院

「第38回庭野平和賞」贈呈式(主催・公益財団法人庭野平和財団)が6月2日、東京と台湾をインターネットで結んでオンラインで開催された。今回の受賞者は台湾の尼僧で社会運動家の昭慧(チャオフェイ)法師(64)。「すべての生命が尊ばれる世界」の実現に向け、動物の保護、人権擁護、男女平等の推進、賭博の禁止、死刑廃止などさまざまな社会運動に取り組んできた。当日は台湾から参加し、記念講演を行った。招待を受けた宗教者や識者337人が視聴した。なお、新型コロナウイルス感染拡大の影響によるオンラインでの実施は、昨年に続いて2回目となる。

「人間仏教」の教えを学び、抜苦与楽の精神で社会活動に尽力

昭慧法師は1957年、ミャンマー・ヤンゴンに生まれ、8歳の時、家族と台湾に移住した。国立台湾師範大学在学中、21歳で仏門に入り、2年後に具足戒を受け僧侶となった。

大学卒業後は教職に進んだ後、「人間(じんかん)仏教」を提唱する印順導師に師事。人間仏教では、寺院などにこもり、世俗を離れて修行するのではなく、社会の問題に積極的に関わり、教えによって世界をより良いものにしていく「行動(実践)」に重きが置かれる。昭慧法師は印順導師から、社会で人に尽くすことが我執を捨て、三毒(貪=とん・瞋=じん・痴=ち)をなくす修行になると学んだ。

86年に「佛教弘誓學院」を創立。以来、智慧(ちえ)と慈悲を身につけて人間仏教を広める人材の育成に尽くしている。

こうした布教活動や人材育成に加え、宗教学や倫理学の研究者でもある昭慧法師は学問を追究するとともに、実質的な社会活動にも取り組んだ。「真の心の平和は沈黙や黙認からではなく、問題と向き合うことによって生まれる」との信念からだ。

93年、「自然保護協会」(LCA)を創設。市民に動物虐待の終止を訴え、「野生動物保育法」「動物保護法」の制定に導いた。

賞状を読み上げる庭野名誉会長 ©庭野平和財団

また、ジェンダー差別に目を向け、男女平等の実現にも尽くしてきた。

仏教界で昭慧法師は、「比丘尼(びくに=尼僧)は比丘(男性僧侶)を常に敬い、従わなければならない」と定めた戒律「八敬法」は釈尊が成文化したものではなく、著しく女性を差別するものであると主張。比丘尼だけに適用されていたこの戒律の廃止を求めた。LGBT(性的少数者)の権利擁護にも取り組み、2012年には台湾で初めて、仏式によるLGBTカップルの結婚式を主宰した。

一方、2009年のカジノの合法化法案に対しては、ギャンブル禁止を訴える連合組織の会長に選出された。カトリック台北教会の洪山川大司教をはじめとする諸宗教指導者、NGО関係者らと協働し、デモ行進などを展開。これにより、離島でのカジノ設置の是非を問う住民投票を実現させ、設置を断念させた。

社会活動に取り組む原動力について、昭慧法師は「仏教徒として、僧侶として抜苦与楽に尽くしたいと思っています。社会では間違った制度によって、多くのいのちが危機に直面し、苦難にさらされる場合があります。そのいのちを何とか助けたいという思いが活動に携わっている理由の一つです」と語っている。

このほか、研究者として学術の発展に寄与。現在、玄奘大学宗教文化学部教授であり、学部長を務めている。著書は30点を超え、研究機関や講座の開設にも積極的で、『宗教文化とジェンダー倫理』と題する国際会議を主宰するなど、文化討論会を通じた社会貢献に尽力する。

人に優しく、菩薩の心に徹し

2日の贈呈式では、庭野浩士理事長のあいさつに続き、庭野平和賞委員会のサラ・ジョセフ委員長(ムスリムのライフスタイルメディア「emel」CEО)が贈呈理由を報告した。次いで、昭慧法師に賞状と顕彰メダル、賞金2000万円の目録が贈呈された。

庭野平和賞委員会のサラ・ジョセフ委員長はロンドンから贈呈理由を発表した ©庭野平和財団

あいさつに立った庭野日鑛名誉会長は、仏教における最も大切な姿勢は、「慈悲の心で相手に寄り添うと同時に智慧に基づいて苦しみの根本原因を見いだし、それぞれの状況に合った適切な行動をとっていくこと」と説示。社会運動を通して、仏の慈悲と智慧を体現する昭慧法師の功績をたたえた。

この後、昭慧法師が記念講演を行った。この中で、宗教・宗派や性別、社会的地位、人種、国籍、種の違いを超えた、いのちそのものへのまなざしが世界平和の重要な礎であると語った。その上で、「人間仏教」に示された「人に優しく、勇敢に、常に先を見ながら菩薩の心で前に向かって歩みを進めていく」大切さを強調。「菩薩の心があれば、私たちは社会に向けて関心を広げ、苦しんでいる人に手を差し伸べることができます」と述べた。