第38回庭野平和賞 台湾の尼僧 昭慧法師に
また、ジェンダー差別に目を向け、男女平等の実現に積極的に取り組んできた。比丘尼(びくに=尼僧)だけに適用される、「比丘尼は比丘(男性僧侶)を常に敬い、従わなければならない」と定めた戒律「八敬法」は釈尊が成文化したものではない上、女性を差別するものであると主張し、廃止を訴えた。さらに、台湾を訪れていたチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ十四世に、性別による序列の修正を直談判したことは国際的に注目され、世論の支持を集めた。このほか、賭博禁止や死刑廃止、核エネルギーからの脱却、LGBT(性的少数者)の権利擁護などの運動を進め、意識の啓発に尽力した。
「真の平和は、表面的な調和や平穏という幻想を超え、その先を見据えられた時にこそ、実現する。行動を起こすことで、私たちの心と世界に平穏と平和が生まれる」というのが法師の信念だ。
2009年のカジノの合法化法案に対しては、ギャンブル禁止を訴える連合の会長に選出され、カトリック台北教会の洪山川大司教をはじめとする諸宗教指導者や研究者らと協働して街頭でのデモ行進などを展開。離島でのカジノ設置の是非を問う住民投票を実現させ、設置を断念させた。
新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、最初の感染者が確認された中国・武漢に対する差別・偏見を助長させる行為について、反対運動を展開している。
一方、宗教学の研究者として学術の発展にも貢献。1994年に輔仁大学で教壇に立ち、現在は玄奘大学宗教文化学部教授(現・学部長)を務める。著書は30点を超える。文化討論会を通じた社会貢献が評価され、2007年に第48回中国文学芸術賞を受賞した。また、09年に台湾国際仏教優秀女性賞、12年には、社会運動パーソンオブザイヤー賞に選ばれた。
庭野平和賞委員会は、仏教が説く「すべての生命が尊ばれる世界」を実現するため、環境保全や男女平等、賭博禁止などさまざまな社会運動を牽引(けんいん)してきた昭慧法師の功績を高く評価し、第38回庭野平和賞の贈呈を決めた。台湾の受賞者は、財団法人「台湾仏教慈済慈善事業基金会」創始者の證厳法師(第24回受賞者)に続き、2人目となる。