「調停に乗り出すWCRPミャンマー委員会」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)
武力ではなく対話を――イラクのサコ枢機卿
イラク北部のクルド人自治区アルビルで2月15日、米軍基地のある国際空港に複数のロケット弾が撃ち込まれ、同基地で働く民間人1人が死亡、米兵1人を含む9人が負傷した。親イラン系のイスラーム・シーア派武装組織「人民動員隊」(PMF)を名乗るグループが犯行声明を出した。
昨年1月、トランプ米政権(当時)はバグダッドの国際空港で、イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官、PMFのアブ・マフディ・ムハンディス副司令官をドローン攻撃によって殺害した。PMFは、同国の英雄的存在である両氏が殺害されたことで米国への報復を決意したとされる。イラクで「イスラーム国」(IS)を名乗る過激派組織の掃討作戦を通して影響力を強め、米国の関連施設や大使館などを標的に攻撃を繰り返してきた。今回の攻撃も、その報復の一環とみられている。
中東全域で米国とイランの対決が鮮明になっている。トランプ政権による中東和平政策――「イラン核合意」からの離脱や、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)による平和条約(「アブラハムの合意」)は、イスラーム・スンニ派を主流とする諸国を支援する一方、シーア派のイランとの対決姿勢を明確に打ち出した格好だ。
新たに誕生したバイデン政権のアントニー・ブリンケン国務長官は、アルビルで発生したロケット弾攻撃を非難。ジェン・サキ米大統領報道官は、「この(バイデン)政権では外交が優先される」(「朝日新聞」電子版2月17日付)と述べ、軍事報復を抑制した新政権の慎重な対応を示唆した。
ローマ教皇フランシスコが3月に訪問する予定のイラクでは、イランとの国境地帯で発生したトルコ軍の(クルド人に対する)軍事行動、イラク・シンジャールでの軍事的な緊張の高まり、イラク南部で頻発する暴力行為などが問題となっている。イラクのシーア派聖職者で、同派の政治組織「サドル運動」の指導者であるムクタダ・アル・サドル師は、「アルビルでのロケット弾攻撃を含め、イラク全土で展開されているさまざまなテロ攻撃や暴力行為が、教皇のイラク訪問を中止、延期させるためのものである可能性が高い」との声明を公表した。クルド人自治区のメディア「Basnews」が17日に報じた。
1月21日には、バグダッドで2件の自爆テロが発生していた。サドル師は教皇のイラク訪問に歓迎の意を表しており、政府に対して「叡智(えいち)ある慎重な対処」を促した。一方、同国外務省の報道官は、「アルビルでのロケット弾攻撃が教皇の訪問に影響を与えることはない」と発言している。
同国のカルデア派カトリック教会の最高指導者であるルイス・ラファエル・サコ枢機卿(バグダッド大司教)は、アルビルで発生した軍事攻撃の報に接し、「平和と生命への道は、“火薬”ではなく、建設的で市民的な“対話”によって構築される」との談話を発表。ロケット弾攻撃を「多大な苦しみに耐えてきたイラク国民、イラク国家にとって何の役にも立たない、愚かな攻撃」と非難した。「対立の傷痕を癒やし、そして諸宗教間、政治に携わる諸勢力間で発生している憎むべき対立から私たちを解放する国家の和解」の重要性を訴えている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)