「教皇がイラク訪問を予定――イスラーム・シーア派最高指導者との会見も」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

教皇がイラク訪問を予定――イスラーム・シーア派最高指導者との会見も

ローマ教皇フランシスコが3月5日から8日まで、イラクを訪問する予定だと伝えられている。

国内最多数のイスラーム・シーア派の指導者たちは、同派の聖地ナジャフに教皇を招待する意向があり、同国のカルデア派カトリック教会の最高指導者であるルイス・ラファエル・サコ枢機卿(バグダッド大司教)は昨年末、その内容をバチカンに伝えた。昨年12月28日、イタリア・カトリック司教会議の通信社「SIR」が報じた。

教皇の聖地訪問が実現すれば、そこでイラクのシーア派最高指導者であるアヤトラ・アリ・シスタニ師との会見が可能となる。また、両指導者が「人類の友愛に関する文書」に共に署名する可能性もあるという。同文書は一昨年2月、アラブ首長国連邦(UAE)・アブダビで教皇とイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長が共に署名したものだ。

ナジャフには、シーア派の祖師であるアリの聖廟(せいびょう)がある。アリはイスラームの預言者ムハンマドの従兄弟であり一人娘ファティマの婿で、第4代カリフとなった。サコ枢機卿は、教皇がタイエブ総長と出会ったように、「シーア派の最高指導者とも出会い、シーア派とスンニ派との橋渡し役を果たせるなら、国際的な平和共存と対話のための貢献となる。カルデア派カトリック教会とイラク・シーア派によって分かち合われた取り組みに対するバチカンの反応を待っている」と期待を寄せた。

サコ枢機卿は言及していないが、教皇によってスンニ派とシーア派との間で対話に向けた努力がなされれば、国際政治の分野でも大きな貢献となる。最近の中東での和平プロセスに関する顕著な動きは、トランプ米大統領の仲介により、昨年9月15日にホワイトハウスでイスラエルと、UAE、バーレーンが共に署名した、国交正常化のための「アブラハム合意」がある。

同大統領は、署名式典で「これらの国はアラブ人、イスラエル人、ムスリム(イスラーム教徒)、ユダヤ教徒、キリスト教徒が調和と平和の中で共存、礼拝し、肩を並べて夢見ることができる未来を選択している」と演説した。中東3宗教に共通する祖師・アブラハムの名を合意書名として選択したことも強調した。トランプ政権は、湾岸のスンニ派諸国の中で最も影響力を持つサウジアラビアとの合意も目指していたが、同国はパレスチナ問題の解決に向けた努力を優先させるべきとして署名しなかった。だが、湾岸のスンニ派諸国とイスラエルを近づけようとするトランプ政権の中東ドクトリンは、シーア派国家イランとの対立を基になされたものに変わりはない。

イスラエルとパレスチナの問題に関して、イスラエル寄りの政策を執るトランプ政権は、イランを「悪の極」として敵視し、一昨年に「イラン核合意」からの離脱を表明した。中東全域でスンニ派とシーア派との対立があおられている格好だ。そうした国際政治の舞台で、教皇とイラクのシーア派指導者が出会うことは、両派の間に対話を促進し、中東地域の緊張を緩和していけるとサコ枢機卿は願っているのだ。

「人類の友愛に関する文書」にシスタニ師も署名すれば、両派にとって、中東和平の実現に向けた対話への第一歩となる。サコ枢機卿は、両指導者による署名が実現しても、「文書の内容は普遍的なものであり、変える必要はない」と話す。

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