教団付置研究所懇話会「生命倫理研究部会」第20回研究会
立正佼成会の中央学術研究所が加盟する教団付置研究所懇話会「生命倫理研究部会」の第20回研究会が11月18日、ウェブ会議システムを使って開催された。オブザーバーを含む8団体から16人が参加した。
同懇話会の分科会の一つである生命倫理研究部会では、「脳死・臓器移植」「安楽死・尊厳死」など生命に関する倫理的な課題について宗教的な視点から考察している。
今回は、今年のノーベル化学賞に、生物の遺伝情報(ゲノム)を書き換える「ゲノム編集」の新たな手法として「CRISPR/Cas9」(クリスパー・キャスナイン)を開発した研究者2人が選ばれたことを受け、浄土宗総合研究所の熊谷信是氏(弘前大学農学生命科学部生物学科発生・生殖生物学研究室研究員)が『ゲノム編集革命――CRISPR-Cas9の歴史から応用まで』と題して発表した。
ゲノム編集とは、遺伝情報の一部を切断したり、別の遺伝情報を組み込んだりする操作のこと。2012年に発表された「CRISPR/Cas9」は、従来の方法に比べて極めて正確に遺伝情報を切断し、そこに別の遺伝情報を組み込むことができる。簡単で、効率が良く、コストが低い点を含め、画期的といわれる。これにより、遺伝病や感染症、がんの治療、作物の収穫量や品質の向上、病気を媒介する蚊の繁殖の抑制、藻類の改良によるバイオ燃料の効率的な生産などに用いられてきた。
熊谷氏は、ゲノム編集の研究の歴史、CRISPR-Cas9がさまざまな分野にもたらした現状を解説した。その上で、ゲノム編集は人々の生活に恩恵を与えつつも、倫理的な問題をはらんでいると強調。18年に中国の研究者が「CRISPR/Cas9」を用い、エイズウイルス(HIV)に耐性のある双子を誕生させた事例を挙げ、生殖細胞や胚(はい)の遺伝情報を書き換えることの問題点、その特徴が本人だけでなく世代を超えて子孫にも引き継がれる危険性を指摘した。
最後に、科学者、宗教者(僧侶)として、生命科学と宗教は共に生老病死をテーマとしており、どちらも、より良い「生」を追求するためにあると説明。ただし、「生命には限界がある」とし、「いのちの終わりも含めて『生』であることを伝えるのが宗教の役割」と述べた。