「飢餓と紛争の悪循環を断ち切るWFPにノーベル平和賞」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

ナゴルノ・カラバフ自治州での軍事活動の停止を――教皇、ロシア正教会とWCC

ローマ教皇フランシスコは10月11日、バチカンでの正午の祈りの席上、一日しか保たれなかったナゴルノ・カラバフ自治州での停戦合意に関して説教した。

アゼルバイジャンの同自治州はアルメニア人が人口の大半を占め、約30年間にわたりアルメニアとアゼルバイジャンとの間で帰属を巡る紛争が続いている。両国はロシアの調停で、同10日に人道的理由により停戦に合意したが、アゼルバイジャン政府が11日、同国第二の都市ギャンジャがアルメニア軍によるミサイル攻撃を受け、市民に死者が出たと公表した。説教の中で、教皇は、当初、停戦合意を評価していたが、一連の報に接して、今回の合意が脆弱(ぜいじゃく)であるとの認識を持った心境を明かし、再合意の確立を訴えた。同時に、「(攻撃による)生命の喪失、人々の苦、そして住居や礼拝場の破壊に対して思いを馳(は)せる」と述べ、戦禍の中にある人々への連帯を表した。

世界教会協議会(WCC)のイオアン・サウカ暫定総幹事は12日、「モスクワで成立した停戦合意を尊重し、あらゆる軍事活動を即刻停止し、人命と人権を擁護するための建設的な対話に向けた努力を」と呼び掛ける声明文を公表した。この中で、「他者の宗教的、文化的な遺産を攻撃しないように」と訴え、諸宗教間の相互理解を促進し、他者の共同体と聖域を尊重するよう求めている。

ロシア正教会の最高指導者であるキリル総主教は13日、今回の戦闘で「市民の居住区域が砲撃され、人々が亡くなり、聖域や伝統文化の記念碑、平和を求める人々の家が破壊されてきた」と憂慮の念を表明。アルメニア正教会の最高指導者であるカレキン二世、カフカス地方のムスリム(イスラーム教徒)管理局のアラクフシュクジュール・パシャーザド師に対し、「この紛争が宗教的性格を帯びないように、問題が平和的な方法によって解決されるように求めてきた、(これまでの)共なる大きな歩み」を振り返り、10日に発効した停戦合意が維持されるようにと訴えた。

カレキン二世も、アルメニア正教会とロシア正教会、カフカス地域のイスラーム共同体がこの紛争を「宗教戦争」にせず、キリスト教徒とムスリムの間で平和と共存を尊び、尽くしてきたことを明らかにしている。しかし、同師は、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領が「機会あるごとに宗教的側面を持ち出して対立を煽っている」と非難した。

一方、バシャーザド師は、「わが国民が領土を防衛するために参戦したのであり、故国を守るためのものは、常に正しい戦争である」と主張する。さらに、報道ではムスリムであるシリア人の傭兵(ようへい)がアゼルバイジャン軍を支援し、正教徒のギリシャ人志願兵がアルメニア軍に交じって参戦しているという情報も流れ、同紛争の宗教的側面が浮かび上がってきてもいる。

ロシアのメディアは、(アゼルバイジャンを支援する)トルコのエルドアン大統領と、パキスタンやアフガニスタンの聖戦主義者たちの間で協力関係が成立しており、両国の聖戦主義者が紛争に介入していると伝えている。

アゼルバイジャン・ギャンジャでは17日、ミサイル攻撃の被害により、少なくとも13人が亡くなった。しかし、両国は同日、米国、ロシア、フランスの3カ国首脳による即時停戦を呼び掛ける共同声明、欧州安全保障協力機構の声明やロシアの仲介を受け、人道目的で18日午前0時(現地時間)からの停戦に合意した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)