南スーダンの現状 JVCが緊急報告会

南スーダンの現状とは――JVCによる緊急報告会(協力・講談社「クーリエ・ジャポン」、GARDEN)が開催され、スーダン事務所現地代表の今井氏が講演した

自衛隊の派遣をめぐる問題が国会で議論される中、南スーダンの現状を伝えるため、認定NPO法人「日本国際ボランティアセンター(JVC)」による「南スーダン現地派遣職員 緊急報告会――『戦闘』なのか? 『衝突』なのか?」が2月23日、東京・文京区の講談社のセミナールームで開催された。

当日は、マスコミ関係者や市民ら150人を前に、JVCスーダン事務所現地代表の今井高樹氏が講演。講談社『現代ビジネス』ゼネラルマネージャーの瀬尾傑氏、ジャーナリストの堀潤氏がインタビュアーを務めた。

南スーダンの現状

アフリカ中央部に位置する同国は、スーダンの一部だったが、約50年にわたる内戦の末、2011年7月に独立した。その後、キール大統領とマシャル前副大統領の間で対立が深まり、13年12月、内戦に発展。国際社会の介入で15年8月に和平協定が締結され、暫定政権が成立したが、16年7月、両派の戦闘が首都ジュバで再発した。

独立以前から約10年にわたって難民、国内避難民を支援している今井氏は、同国の歴史に触れながら、現在の対立構造に言及。両派の対立は、1990年代から続く石油や他国からの援助金などの利権をめぐる権力闘争が根本原因で、現在は、大統領の出身部族であるディンカと、前副大統領出身部族のヌエルとの民族間の争いにまで発展していると指摘した。双方の部族内で敵対感情があおられ、「憎悪、報復の連鎖が生まれている」と強調。民兵や兵士間の戦闘だけでなく、「異なる部族」と分かった時点で危害が加えられるなど一般市民にも被害が及んでいると報告した。

加えて、内戦による不安定な政治、経済状況の中、公務員や警察、兵士への給与の遅配、未配が発生。そのため、政府黙認の上で、横領や不正、略奪、レイプといった一般市民への暴力が横行しており、「統治が機能しているとは思えない」と述べた。

また、戦闘が地方に拡散し、約210万人の国内避難民、約150万人の難民が発生していると解説。特に、ジュバのあるエクアトリア地域の戦闘が激しく、昨年後半から隣国のウガンダに逃れる難民は40万人に上ると述べた。

こうした状況を受け、今井氏らJVCスタッフは国内避難民に対し、食料や衣類をはじめ、石けん、蚊帳などの生活用品、クリニックに医療品の緊急支援を実施したと報告。そこで出会った多くの避難民が親族を亡くしており、戦闘の再発を恐れて安心して暮らせない市民の心境を明かした。同国内では、物価の高騰や物不足が進むほか、犯罪が横行し、「ここでは生活できない」と嘆く市民の現状を詳述した。

PKOについて

続いて今井氏は、同国での国連平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊の任務に言及。当初は新国家建設の支援を目的としていたが、戦闘発生後は、国連の設置する避難民保護キャンプや空港などの警備を担当していることを紹介した。

この中で、避難民保護の任務にあたっているが、昨年7月に戦闘が再発して以降、兵士による住民や避難民、外国人援助関係者への襲撃を止められなかったと報告した。その理由の一つとして、襲撃には武装勢力だけでなく政府軍も関わっている場合もあり、政府軍と対峙(たいじ)する可能性を指摘し、「PKOは、一般市民の保護すらやりにくい状況にある」と述べた。一方、多くの市民が、戦闘を止められず、住民を保護できないPKOに対して失望していると語った。

また、自衛隊がPKOに参加する5原則の、紛争当事者間で停戦合意が成立しているかという点については、「『戦闘』か『衝突』か、答えを出すのは今回の趣旨ではない」とした上で、「実際の状況は内戦状態に近いと思う」と述べた。日本が参加することを同国政府が同意している点については、形式上は同意しているが、政府軍の妨害があることから「同意しているとは言いにくい状況」と指摘した。

フロアから

当日は、参加者から多数の質問が寄せられた。一部を紹介する。

――現地や海外メディアの活動について

同国の暫定憲法で「表現とメディアの自由」が規定され、日刊紙やラジオによる報道があると説明した。しかし、実際には政府による介入が過剰で、言論統制が行われているため、情報の信ぴょう性に欠けると詳述。一方、外国人ジャーナリストに対する活動に関しても規制があるため、出国後に記事を執筆するといった工夫がなされていると述べた。

――各国NGOの安全対策について

人道支援における「中立性・公平性の原則」に基づき、どのような軍隊の警護も受けず、非武装で活動するのが基本と回答。地域住民との信頼関係を築き、自ら情報収集するほか、NGO同士で情報を交換し、共に安全を図っていると語った。

――平和構築に向けた宗教者の働きについて

同国の宗教は、キリスト教のカトリックと聖公会が多数派であるとし、宗教指導者の意見は国会でも大きな影響力があると説明。昨年の闘争の際には、大統領と前副大統領に対し、指導者たちが連名で紛争の中断を求める書簡を送ったと紹介した。また、指導者たちは昨年、バチカンでローマ教皇フランシスコと面会したことに触れ、国外の宗教者に平和構築のための協力を求める動きが見られると語った。