【元東レ経営研究所社長・佐々木常夫さん】苦しみを乗り越える原動力 幸せになるという強い意志を

自分を変えて、楽観主義で 行動を起こし、幸せの果実を

――どうしても苦手と感じてしまう相手もいると思いますが

そうですね。全ての人を愛するのは難しいことです。相性もありますからね。以前に、ひどいことを言われたり、見下されたりして、その人を嫌いになる場合もあるでしょう。しかし、それでもなお、私たちは人を愛する努力をすべきです。周囲の人が「身勝手でわがままな弱い存在」であるのと同じくらい、自分もそうなのですから。

“それでもなお”と自分に言い聞かせ、人を愛する努力をする強さが必要だと思います。「強さ」とは、行動を起こすことと、自分を少し変えることですね。

例えば、自分が相手の思いに賛同しかねるとしても、相手がそうしたいと強く思っているのであれば、それを認めてあげるしかありません。相手は変えられませんから、自分が変わるのです。また、嫌な人であっても相手を拒絶するのではなく、相手の良い点を探す、話し掛けに行くといった努力をしてみる。それが「愛する」入り口に立つことになります。簡単ではないかもしれませんが、行動すること、変わることを拒否していたら、みすみす、目の前にある幸せの果実を逃してしまいますよ。

――自分を愛することも必要でしょうか

実は、自分を愛することの方が大事です。自分を愛するからこそ、人を愛することができます。

なかなか自分のことを好きになれない、自信を持てないという声を聞きます。そういう人は、自分の悪いところばかりに目が行っていませんか。人には必ず良いところがあると話しましたが、それは自分も例外ではありません。自身の良いところを見つけ、認めていくことで、自分を愛する、尊ぶことができるようになっていきます。

「習慣は才能を超える」。良いところを一つ一つ見ようとすることから始めてください。一回だけでは身につきません。繰り返していくうちに、それが習慣となり、いつの間にか自分の良いところをたくさん数えられているようになるはずです。

――困難に直面しても前向きに物事を捉える、佐々木さんのその発想の原点は

「悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意志のもの」とフランスの哲学者であるアランは指摘していますが、自分は“楽観主義者”でありたいと思ってきました。

悲観主義というのは、行動を起こす前に、「たぶん、駄目だろう」「どうせ私にはできない」と、気分に負けてしまうことです。これに対し、楽観主義とは、「成功するだろうな」と思うことです。そう思えれば、目標が設定され、自分が目指すところに向かっていけます。だから頑張れる。

先の「強さ」にもつながってきますね。努力しても良い結果が出るとは限りませんが、努力しないと結果さえ出てきません。悲観主義は自分から幸せになれるチャンスを手放しているのです。

私の妻はかつて、肝臓病とうつ病を患っていました。当時、妻は私の仕事中、日に何度も不安を訴える電話をかけてきて、帰宅してからも悩みを話し掛けてきます。いつ自殺を図るかも分かりませんでした。加えて、3人の子供たちの生活も守っていかなければなりません。緊張の日々で、家庭と仕事の両立は大変でした。逃げ出したいと思ったことは一度や二度ではありませんが、それでも、「苦しみを乗り越えた先には、きっと幸せがあるはずだ」と自らに言い聞かせていました。今思えば、その意志が困難を乗り越える原動力になったと実感しています。

アドラーは、「人はいつでも変われる。いつでも、誰もが幸せになれる」と言っています。私もそう思います。人は幸せになるために生まれてきたのですから。

プロフィル

ささき・つねお 1944年、秋田市生まれ。東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社した。同社取締役、東レ経営研究所社長を務めた。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授を歴任。現在、株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役。『働く君に贈る25の言葉』(WAVE出版)、『それでも、人を愛しなさい』(あさ出版)など著書多数。