障がい児者への性暴力をなくすために 庭野平和財団とSJFが映画「くちづけ」上映会・トークセッション

『障がい児者への性暴力の実態が認識される社会へ』をテーマに、映画の上映会とトークセッションが6月1日、佼成図書館視聴覚ホール(東京・杉並区)で開催された。主催は公益財団法人・庭野平和財団とソーシャル・ジャスティス基金(SJF)。性暴力の撲滅を目指すNPO法人「しあわせなみだ」が協力した。

同財団は一昨年から、SJFと共同で「見逃されがちだが、大切な問題に対する取り組み」への資金助成事業を行っている。昨年、「しあわせなみだ」による、「『障がい児者への性暴力』に関するアドボカシー事業」に助成した。

当日は会員や市民約130人が参加。同財団の高谷忠嗣専務理事、SJFの上村英明運営委員長による開会挨拶の後、知的障害者の自立支援のためのグループホームを舞台にした映画「くちづけ」が上映された。映画は、過去に性暴力を受け、男性恐怖症になった知的障害者の主人公や他の入所者を通して、人権が十分に尊重されていない知的障害者の社会状況、さらに、主人公と父親との関係を中心に家族が抱える葛藤を描いた物語。参加者は、障害者とその保護者が抱える複合的な問題について学んだ。

続いて、「しあわせなみだ」の中野宏美理事長、菊池悦子スタッフ、東洋大学の岩田千亜紀助教が登壇し、トークセッションが行われた。

手話通訳付きで行われたトークセッションでは、目に見えにくい障害者への性暴力の実態と現状が語られた

この中で中野理事長は、ある海外の調査によると、性暴力を経験している割合が、障害者は健常者の約3倍に上ると説明した。

これについて障害者福祉を専門とする岩田助教は、知的障害者が素直で人の悪意を感じ取りにくい傾向にあり、さらに、障害者が孤立している現状があるため、加害者はそうした弱みにつけ込んでいると指摘。女性は性暴力を受けても被害を訴えにくく、その上、発達障害や知的障害がある場合は、「被害に遭った自分が悪い」「言っても信じてもらえない」といった心理が働きがちであると説明した。

また、訴訟を起こすには、物証や被害者の証言が必要だが、障害者は被害状況を的確に説明できない場合が多く、裁判までなかなかたどり着けないと解説。「潜在的な被害件数は非常に多いのではないか」と話した。

中野理事長は、「障害があることが性暴力のリスクになっていますが、被害者に責任はありません。周りにいる私たちが共に考え、行動することで、(障害者への性暴力を)なくしていくことができます」と強調。日本も海外同様に、刑法性犯罪処罰規定において障害の特性に配慮する必要があると訴え、刑法に「性犯罪被害者としての障がい者」の概念を盛り込むことを求めるオンライン署名への協力を呼び掛けた。