「ノートルダム大聖堂の火災に大きな衝撃」「ロヒンギャ問題の解決へ」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

対立する政治指導者の靴にキスをした教皇

2011年に独立したものの、絶え間ない紛争に苦しんできた南スーダン。13年には、サルバ・キール大統領派とリヤク・マシャール元副大統領派との間で内戦が起こり、ようやく18年に隣国スーダンの首都ハルツームで和平協定が調印された。しかし、その後も、同国では武力行使、民族闘争、市民の誘拐や監禁、司法によらない死刑執行など、双方による暴力行為がやまなかった。

こうした状況を憂慮する英国国教会の最高指導者であるカンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビー師はローマ教皇フランシスコに、南スーダンで対立する両指導者の調停を提案し、教皇が受け入れた。キリスト教両教会の最高指導者が南スーダン和平のために提案した調停は、バチカンにおけるキール大統領、マシャール元副大統領、他の3人の副大統領の「霊的修養会」(spiritual retreat)という、世界でも類例のない和平調停会議として実現した。

4月10、11の両日、バチカン市国内の教皇居所「聖マルタの家」で、対立する南スーダンの政治指導者たちがそろい、和平に向けて「反省」する努力がなされるよう、同席した現地の聖公会やカトリック教会の指導者たちが祈りと、国民の苦しみの声を代弁することによって支えた。

修養会の最終日に政治、教会指導者たちに面会した教皇は、「この修養会の目的は、神の眼前に共に立ち、神の意思を識別」するものであると話し、「南スーダン国民の現在と未来に関する巨大な共同責任について自覚することだった」とスピーチ。さらに、「あなたたちは、和平合意に署名されたが、あなたたちの兄弟として私は、平和の内に残ってくださるように、お願いします」と嘆願した。

また、「あなたたちの間では、葛藤や不和があることでしょうが、それらを、あなたたちの間にとどめ、国民の前では手を握り合ってください」とも付け加えた。この発言は、想定されてものではなく、教皇の“アドリブ”であったと伝えられている。スピーチを終えた教皇は、皆が驚き、困惑する中、対立する両政治指導者の前にひざまずき、彼らの足にキスをした。自身が政治指導者と同じように、「奉仕者中の奉仕者」であることを示し、「南スーダンの和平を何としてでも」と嘆願する、教皇の前代未聞の行動だった。しかし、この異例の行動が多くの人々の心を打ったことは間違いがないようだ。

南スーダンでは、昨年の和平合意に沿って今年5月12日までに、対立する両指導者が参加して暫定統一政権が発足することになっているが、隣国スーダンでは11日、軍によるクーデタ-が発生し、バシル政権が崩壊した。この隣国の不安定な政治状況が、南スーダンの和平プロセスに悪影響を与えるのではないかと懸念され始めている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)