楽生(らくいき)~楽に生きるを極めるヒント~(8) 文・日本笑いヨガ協会代表 高田佳子

人の目より、自分のこころ
前回は、「自分で決める」ことの大切さがテーマでしたが、実際には、「どうしたいかがわからない」という方も少なくありません。自分を大切にし、自分を優先することの第一歩は、自分の気持ちを知ることです。ところが、その気持ちがはっきりしないという人が多いのです。
その大きな理由のひとつが、人から認められたいという「承認欲求」です。承認欲求は、誰にでもある自然なこころです。褒められたり、感謝されたりすれば嬉(うれ)しいですし、それが次の行動への力になります。問題は、その気持ちが強くなりすぎて、「どう思われるか」が選択の基準になってしまうことです。
たとえば、町内会のイベントで餅つき大会の準備を一生懸命したのに、人の集まりが悪かった。あるいは、地域の花壇の手入れを長年しているけど、誰からもお礼の言葉がない。そんなとき、がっかりしたり、落ち込んだりすることがあります。
もちろん、感謝されれば嬉しいものです。しかし、本来の目的は「自分が決めた役割や使命を果たすこと」だったはずです。感謝や評価はあくまでも結果のひとつ、ご褒美のようなものです。ご褒美が基準になってしまうと、自分の満足感まで人任せになってしまいます。
承認欲求が強いとき、私たちは人の表情や反応にとても敏感になります。「あの人は喜んでくれるだろうか」「失礼だと思われないだろうか」と、相手の気持ちを先回りして考えてしまいます。一見、思いやりのように見えますが、そこに自分の気持ちが含まれていなければ、それは単に“人の基準で生きている”ということです。
この生き方を続けると、自分の中の“軸”は弱くなります。相手の反応がよければ安心し、反応が悪ければ自信をなくす。自分の心の基準をすべて他人に預けてしまっていると、「どうしたいかがわからない」「決められない」が起きてくるのです。

イラスト・みよし
私たちは長い間、「和を乱さない」ことを大切にする文化の中で生きてきました。それは、人間関係を円滑にする知恵ですが、同時に「自分の意思を後回しにする」習慣も育ててきました。家族や周囲を優先するのが当たり前というときもあったでしょう。しかし、その生き方だけでは、軽やかに、そしてこころから楽に生きるのは難しいのです。少し勇気を出して、「自分の気持ちをまず確かめる」という習慣を持っていただきたいと思います。
時代が変わったからです。価値観も選択肢も多様になった今、何が正しいか間違いかは一概に言い切れません。だからこそ、他人の基準ではなく、自分の基準を持つことが必要です。それはわがままではなく、自分を大切にする生き方です。
承認欲求をなくす、というと難しく聞こえるかもしれません。でも本当は、「人からの承認を基準にしない」というシンプルなことです。人から感謝されたり褒められたりされなくても、地域の花壇を見て「お花がきれい」と自分が感じられたなら、その幸福感は誰にも依存していません。こうした小さな積み重ねが、自分の中にしっかりとした“軸”を育ててくれます。
今日から、「私はどう感じるか」を一度考え、自分の気持ちを最優先させてみてください。自分を大切にすることができて、本当の意味で相手も大切にできるのではないでしょうか。
今月の笑い
雪払い笑い
からだに降り積もる雪は、何度払ってもまた積もります。ハハハと熱量上げて、雪を払い続けましょう。
YouTube「高田佳子の笑トレで楽生」で、笑いの体操の動画が見られます。
プロフィル

たかだ・よしこ 兵庫県神戸市生まれ。日本笑いヨガ協会代表、一般社団法人笑いイノベーション学会理事長。早稲田大学非常勤講師。人が一生笑って生きられる環境づくりがライフワーク。40代で老年学修士号を取得し、2009年にインドで笑いヨガを学ぶ。介護予防・認知症予防・ストレスケアに役立つ「笑トレ」を提唱し、科学的知見をもとに心と体を軽やかにする生き方を発信している。
笑トレで元気に――健康と幸せを呼ぶ“心の筋トレ”






