かけがえのない平和、若い人たちに守り続けてもらいたい 被爆体験証言者・蜂須賀智子氏
８月１０日、大聖堂で学生たちを前に被爆体験を語る蜂須賀さん
思い出したくないと願ってみても、夏が近づいてくると、８月６日の惨状がよみがえってしまい、つらい日々を過ごします。
私は女学校２年生、１４才でした。あの頃は、日本全体が、戦争に勝つことが一番大切という雰囲気になっていました。女学生といっても、学校で勉強することはできませんでした。学徒勤労動員といって、中学生も女学生もお国のために働いていました。私も、軍需工場に学徒動員されていました。工場では、１階で工員さんが大きな機械で作った部品を２階に上げ、それを私たち学徒がやすりできれいに磨く作業をしていました。
８月６日の朝、朝礼後に、２階で部品が上がってくるのを待っていましたが、なかなか上がってきません。そのため１階に下りて部品をもらうために待っていた時でした。突然青白い閃光（せんこう）が走り、同時にものすごい白煙がどっと噴き上がり、天井を貫きました。そこで私の記憶は途切れました。気がつくと工場の下敷きになって身動きがとれません。幸いなことに足は動かせたので、バタバタさせて、大声で助けを求めておりました。突然、誰かが、私の両足首をしっかりと握り、引きずり出してくださいました。
その時、私の視界に入ったもの、それは見渡す限り、「ガレキの海」のようでした。そして本来ならば見えるはずのない広島駅が、手に取るように近くに見えて、愕然（がくぜん）としました。私を引っ張り出してくれたのは、誰だったのか、今もなお分かりません。私は、何が起こったのか、皆目見当もつかず、怖くて身がすくんで、その場にしゃがみ込んでしまいました。すると周りの雑草がボッボッと、自然に火がついて燃え始めました。不思議なことがあるものだなあと思って眺めていたのですが、だんだん燃え広がってきたので、川の土手へ移動しました。
河川敷に下りてみると、この世のものとは思えない、驚きの光景が広がっていました。髪を振り乱し、顔面蒼白（そうはく）で目はとろんとして、まるで幽霊のような人々がふらふらと歩いているではありませんか。中には、顔半分が陥没して、目玉が飛び出ている人、肩から腕、皮膚がずりむけて指の爪の所で止まり、ぼろ布のように垂れ下がっている人々、うずくまってうめいている人、泣き叫んでいる人――この世の地獄でした。
