誰も自殺に追い込まれることのない社会へ――地域のつながりが命を守る NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」代表・清水康之氏
自殺で亡くなった方が、亡くなるまでに何らかの専門機関に相談をしていたかどうかを遺族に尋ねた調査結果があります。回答のあった498人のうち、実に70%が「相談していた」と答えています。加えて、そのうちの約6割、全体の44%は、亡くなる前の1カ月以内に相談に訪れていました。これだけの人が、自分が抱えている問題を解決しようと勇気を出して一歩を踏み出し、生きる道を模索して相談に訪れていたにもかかわらず、結果的に生きる道を選べていない。
それは、窓口の対応が必ずしも適切ではなかったのかもしれませんし、複数の問題を抱えながらも、訪れることができたのが一つの問題に対応する窓口でしかなく、他の問題を解決することができないまま悪化した、とも推察できます。「もう生きられない、死ぬしかない」という状況でも、生きる道を選択できるように支援するには、悩みや問題を抱えている当事者のニーズに応える形で、関係機関が素早く連携していくことが求められています。
数々の社会問題に対応するための地域の財的、人的な資源は、人口減少や超高齢社会の中で、減少の一途をたどることは明白です。一方で、生活スタイルが多様化するに従って、個々人や世帯が抱える問題はどんどん複雑化、複合化していっています。既存の制度の枠組みや支援のあり方では十分に対応できないような、そうした困難な時代に、私たちは限られた資源で向き合わなければならないのです。
自殺は、さまざまな問題が連鎖し、複雑化した先にある、最も深刻な結末です。そう考えると、この問題にしっかりと対応できる地域社会を築いていくことは、この手前に横たわるさまざまな問題にも柔軟に対処できる地域社会を築いていくことに直結します。そうした意味で、自殺対策は生き心地のよい地域社会づくりそのものでもあるのです。
(10月24日、立正佼成会の「第22回職員人権啓発講座」の講演から)
プロフィル
しみず・やすゆき 1972年、東京都生まれ。NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」代表。97年にNHKに入局。2001年10月放送の情報番組「クローズアップ現代」のディレクターとして「お父さん死なないで~親が自殺 遺された子どもたち~」を制作した。取材を通して自死遺児に出会い、自殺の問題と向き合う。04年にNHKを退職し、現職。