【一般社団法人ビーラインドプロジェクト代表理事・浅見幸佑さん】見える・見えないを超えた働き方をつくる

視覚障害のある人が「店長」となり、接客や配膳を行うカフェが今年2月、東京・杉並区に開店した。店舗を立ち上げたのは、視覚障害への理解を深める活動を行う一般社団法人ビーラインドプロジェクトの浅見幸佑さん。視覚の違いに関わらず、誰もが楽しみながら働く社会を実現したい――。小さなカフェから広がる浅見さんの取り組みと夢を聞いた。
視野の満ち欠けを生かして
――カフェの特長を教えてください
当店「MOONLOOP CAFE」は、名前の通り『月の満ち欠けと視野の違い』をコンセプトにしています。営業日は毎週月曜で、週替わりで店長を務める視覚障害のあるスタッフの視野(見ることができる範囲)を月の満ち欠けに見立てて、ミルクとスパイスの配合が変わるチャイを提供しています。
例えば、全盲の人が店長なら、光のない「新月」として、ミルク感が少なくスパイシーな風味にします。片側だけ見える人は「半月」、視野は欠けていないけど視力が弱い人は「朧月(おぼろづき)」となり、それぞれミルク感を調整して味を変えていきます。
また、視覚障害があっても働きやすいように、スタッフがカウンターや壁を伝って移動したり、飲み物の落下や火傷(やけど)を防ぐため、注ぎ口をカップに引っかけられるポットを使ったりといった工夫を施しています。

店内では、視覚障害のある店員とない店員が声をかけ合い、協力しながら調理や配膳にあたる
カフェを運営しているビーラインドプロジェクトでは、視覚障害への理解を深めるため、3年ほど前から目が見える人と見えない人が交流するイベントを開催してきました。3千人を超える参加者と出会う中でよく話題になったのが、仕事に関する悩みでした。
現状、視覚障害者が働ける仕事はとても限られています。障害者雇用で就職できたとしても「晴眼(視覚障害がない)の上司と打ち解けられない」「社内を自由に移動できなくて不便」などと、課題は尽きません。お話を伺った方々が「本当はこんな仕事をしたかったけど、難しいよね……」と諦めたようにこぼした瞬間が、今も印象に残っています。
そこで、目の見えない人と見える人が一緒に楽しく働ける場を自分たちでつくりたいと考えました。カフェを選んだのは、「飲食店で接客したかった」という声が特に多かったからです。日替わりで店主が変わるシェアリングコーヒーショップ「蜃気楼珈琲」のオーナーさんに協力して頂き、お店を借りて挑戦することにしました。
――オープンまでにどのような準備を重ねましたか
昨年6月に大学生の仲間とプロジェクトを発足した後、4カ月間はカフェの方向性を話し合いました。僕としては、多くの人に興味を持ってもらうため、障害のある人を助けるというより、「視覚障害という特性を楽しめる店にしたい」との思いがありました。そこで、各地のカフェを視察しながら仲間と会議を行う中で、『視野の満ち欠け』というコンセプトが決まったのです。
10月には、イベントで知り合った視覚障害のある学生2人が参加してくれました。彼らは飲食の仕事は未経験でしたが、毎週のように接客や配膳を練習し、実際にお客さんを招いての限定イベントで技術を磨きながら、今年2月のオープンを迎えました。現在は、視覚障害のある3人と、僕を含めた晴眼の2人が店に立っています。
――お店で働くスタッフやお客さんからの反響は
視覚障害のある人がワクワクする仕事を生み出したいので、働く仲間が楽しんでくれることが一番の喜びです。
スタッフの一人は弱視があって、大学で周囲とうまく関われなかったり、飲食店のアルバイトも障害を理由に落とされたりと、新しいことに挑戦する難しさを感じていました。ですが、このカフェでの体験を起点に、コーヒーを提供するバリスタになるという目標ができました。「チャレンジする気持ちになれた」と言ってもらえた時は、素直にうれしかったですね。
お客さんからもさまざまな感想を頂いています。晴眼の人は、スタッフとの会話や店内の工夫を通して、視覚障害の文化に興味を示してくれる方が多いです。視覚障害のある人は、障害に理解のあるスタッフがいること自体がうれしいようで、中には「自分も働いてみたい」と言ってくれる方もいました。働く人だけでなく、お客さんにとっても、希望を感じられる場所になっているのかもしれません。