【佛心宗大叢山福厳寺住職・大愚元勝さん】仏教で“心の生活習慣”を見直す

創建540年を誇る禅寺の住職を務めながら、ユーチューバーとして活躍する大愚元勝さん。「大愚和尚の一問一答」と題した動画では、全国からメールで寄せられる悩み相談に答え、人気を博している。現代の人々はどんな悩みを抱え、仏教に何を求めているのか。大愚和尚の考えに迫った。

誰かと比較する苦しさ

――YouTubeチャンネルを始めたきっかけは

最初は、お寺で直接悩み相談に応じていました。住職になる前、自分で会社を経営していた時に、お客さんからの相談を受けていた経験から、誰にも悩みを相談できず、人知れず苦しみ続けている方が数多くいる現実に気づかされました。

何かできることがあればと考えていた時、YouTubeの存在を知り、“これだ”と思いました。動画であれば、相談する人が名前や顔をさらさなくても、本当に目の前にいるように言葉をかけられるからです。これまで1000本以上撮りましたが、いつも原稿は用意せず、編集もほぼ無し。お寺でやっている対面での相談活動を、そのまま動画にしたいと願っています。

YouTubeチャンネルの動画を撮影する大愚和尚(本人提供)

――現代の人々の悩みに何か特徴はありますか

人々の悩み自体は、人間関係や金銭の問題など、昔とあまり傾向は変わりません。ただ、確実に言えることが一つあります。

それは、他人と自分を比べること。日本人の多くは、衣食住が足りていて、世界的に見れば富裕層と言えます。でも、自分がそうだとは思えず、むしろ恵まれていない部分があると感じています。SNSでは毎日のように、「あの人は別荘を持っている」とか「あの人は高級外車を買った」などと、心を刺激するような情報が飛び交っています。裕福で幸せそうな人を見ては自分と比較し、不満や嫉妬で苦しむのです。

これは、仏教でいう心の三毒、「貪欲(とんよく)・瞋恚(しんに)・愚癡(ぐち)」(欲・怒り・愚かさ)に陥った状況です。現代人の自己肯定感の低さの根底に、自分に満足していないという潜在意識が見え隠れしています。SNSの普及で、自分と誰かを簡単に比べられるようになったため、認められたい、褒められたいという承認欲求がより強くなっているのではないでしょうか。

先日、若い方からこんな相談がメールで届きました。「私は、今を精いっぱい生きることが一番幸せなんだと気づきました。大愚和尚の人生観を聞いてみたいです」。しかし、本当に自分の人生を幸せと思うなら、私の人生観を聞きたいとは思わないはずです。私にメールを送ってきているところが、「あなたの考えは素晴らしい」と褒められたいという承認欲求の表れです。

一方で、ご高齢の方と話をすると、よくハッとさせられます。ある方の葬儀で、残されたお連れ合いに今までの思い出を尋ねました。すると、親に決められた結婚で、頑固な夫に苦労し、子育て中も農作業に追われた……などとたくさん文句を言われました。それでも、「もう1回人生があれば、またおじいちゃんと一緒になりたい?」と聞くと、「そうだろうね。他の人は知らんもん」と笑顔でおっしゃるのです。この人のように、他人と比較するという考えがなければ、自分の人生を不幸と感じないのです。本当に人間の幸せって何だろう、と思わされました。

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