【思考の整理家®・鈴木進介さん】思考をシンプルにすることで、大切にすべきことを見いだして
自分らしく生きていくために 「三つの視点」でものを考える
――思考を整理するために、どのような方法がありますか?
思考を整理する上で大切にしてほしい視点が三つあります。一つ目は、「今」と「未来」を分離して考え、今に視点を向けることです。起こってもいない未来を想像して一喜一憂しないようにしましょう。
夢やビジョンは大切ですが、未来のことを考え過ぎると、「本当にかなえることができるのか」「このまま続けて大丈夫か」といった不安が大きくなる場合が多く、その分、今すべきことが、おろそかになります。ですから、今できることに心を定め、その日できることに意識を集中していくようにしてください。
二つ目は、「自分でコントロールできることと、できないことを分離する」というものです。
人は不思議とコントロールできないことに意識を取られて、頑張って乗り越えようとする場合があります。新型コロナウイルスの感染が拡大して、皆さん不安になりましたよね。ただし、自分一人の力で感染者数を減らすこと、ましてやウイルスをコントロールすることはできないのに、あれやこれやと考えて、不安に駆られてしまう人が少なくありません。自分ではコントロールできないことは理解する程度にとどめ、今、自分にできることを考えて実施する。コロナについてなら、マスクをするなど個人ができる感染対策を着実に実行していけばいいわけです。
元プロ野球選手の松井秀喜さんもこの考えを徹底されていました。左手首骨折という選手生命を脅かす大けがを負った中で、今できることとして下半身のトレーニングを続けたそうです。起きてしまった事故は、もうどうすることもできないと受けとめ、今、自分にできることに意識を集中された姿勢は、参考になると思います。
三つ目は、「小さな一歩を大切にする」という考えを持つことです。私たちは大きな困難や問題に直面した時、プレッシャーを感じて「もっと能力を身につけないと」とか「モチベーションを上げないと」と思い込み、実際以上に困難や問題を大きく捉えすぎて、行動を起こせなくなる場合が少なくありません。
実際はどんなことも、小さな一歩から始まります。その積み重ねによって物事は成就していくのです。例えば不要な物が散乱した場所も、ごみを一つ拾うことから始まります。大きなプロジェクトの提案書作成も、パソコンの電源を入れるところからです。タイトルを書き出してみることで次につながります。「何事も小さな一歩から始まる」――そうした考えを大切にすることで、自分がすべき行動やその後の道筋がクリアになり、思考を整理できます。さらに、実際に行動してみることで自分の中に変化が生まれ、自信を持つチャンスにもなります。
ここに挙げた三つは連動していて、物事に当たる時や問題に直面した時は、「今に意識を向け、自分でコントロールできることに集中することを心がけ、小さな一歩を踏み出す姿勢を大事にする」と自分に言い聞かせて取り組んでみてほしいと思います。
――「自分のしたいこと」「自分らしい生き方」を見つけていく時にも、思考の整理は役立ちますか
人との出会いや触れ合い、さまざまな体験を基に、自分を振り返ることで、それは見つけていくことができます。自分が大切にしたい生き方が定まれば、社会の変化にも対応することができます。ただ、「自分のしたいことは?」「大切にしたいことは何か?」といった問いかけをする時に、「他人と比較して考えないこと」が大前提です。
「これをしたら、自慢できそう」とか、反対に「変な目で見られそう」「変わっていると思われそう」、または「みんながこれをしているから」といった考えで問いかけるのは、自分自身と向き合うことになりません。「他人との比較」はノイズです。
「自分らしい生き方」を見つけたいのに、何をすればいいかが分からない時は、まずは自分が「心地よいと感じる行動」を考えることから始めてみましょう。それも難しい場合は、不快なこと、したくないことを挙げて消去法で考えると良いでしょう。意外な自分に気づき、大切にしたい価値観が明確になり、自分が大切にしたい生き方、いわゆる「自分らしさ」が見えてきます。
それらを考える時は、ぜひ書き出すことをお勧めしています。大事なのは見える化することで、いつでも振り返ることができます。
自分らしさや大切なものが自身の軸になります。思考をシンプルにして、心を乱さず、自分を見失わなければ、どんな時代においてもしなやかに生きていくことができるはずです。
プロフィル
すずき・しんすけ 1974年、大阪府生まれ。株式会社コンパスの代表取締役を務め、経営コンサルタント、人材育成トレーナーとして活躍する。独自の思考の整理術は幅広く支持され、コンサルティングの実績は100社以上。研修は年間約150日登壇し、セミナー受講者数は4万人を超える。著書に『頭の“よはく”のつくり方』(日本実業出版社)など14冊。