【子ども食堂「げんきカレー」店長・齊藤樹さん】どの子も元気で健やかに――皆をつなぐ「みらいチケット」

地域の子どもの成長を温かく見守れる社会に

――「みらいチケット」への反響が大きいそうですね

理由は三点あると考えています。一つは、あるようでなかった仕組みだからです。チケットを購入したお客さんは、それをホワイトボードに貼り、メッセージを書き込めます。次の来店時に自分のチケットがなくなっていると、「誰かの役に立ててうれしい」と笑顔で話してくれます。200円のチケットが子どもたちの未来に役立っているという実感や、食事をしている子どもたちの様子を目にしますから、その距離感が共感を呼んだのだと思います。

二つ目は、マスコミの影響力です。活動の輪を広げていくには発信することが大事ですから、もともとプレスリリースの勉強をしていて、記者クラブにもよく通っていました。ある時、地元の新聞社が私たちの活動を取材してくれたのです。すると、次にテレビで取り上げられて、視聴者からの問い合わせが相次ぎました。今でも、全国から「同じ方法で子ども食堂を運営したい」という相談などが相次いで、運営方法などをアドバイスしています。

三つ目は、支援を継続できていることでしょう。全国には6000以上の子ども食堂がありますが、資金面の不安を抱えている所は少なくないようです。子どもたちを支えるには、長く活動を続けることが重要で、そうしなければ彼らが明るい未来を思い描くこともできません。ですから、企業や行政を訪ねて、子どもたちの状況や活動の内容を丁寧に伝えて、積極的に幅広い支援を募ることもしています。工夫と改善を重ねながら活動しています。

ボランティア講師の大学生らに勉強を教わる小中学生たち

おかげさまで、今では無償で食材を提供してくださる企業や農家があります。また、昨年5月には行政や企業とタイアップし、ひとり親世帯の子どもたちにレトルトカレーやご飯、教材を贈る取り組みを行いました。現在は、食材の支援をしてくださる企業と、他の子ども食堂の橋渡しもするようになりました。企業の支援を受けられれば、各地の子ども食堂の運営が安定すると考えたからです。

――今の願いは?

夢は、「げんきカレー」のような店舗が47都道府県に広がることです。そうなれば、もっと人と人とがつながりを感じられる社会になるように思えてなりません。

究極的には「子ども食堂」がなくても、全ての子どもが健やかに育っていける社会になってほしいと願っていますが、周りの大人たちが地域の子どもたちの成長を温かく見守れる人のつながりは、ずっとあり続けてほしいですね。

私が小さかった頃、「子ども食堂」はありませんでした。それでも、学校の帰り道、近所のおばちゃんから「おやつあるから食べてき」と、ごく当たり前のように声をかけてもらいました。家で味噌(みそ)や醬油(しょうゆ)を切らしていると、母親から近所に借りに行くように言われたこともあります。今は核家族化が進み、地域での人間関係も希薄になっています。げんきカレーに携わってくださる方々を通して、困っていれば互いに助け合うという精神や人間的なつながりが広がっていくことが願いです。
(写真は全て、本人提供)

プロフィル

さいとう・しげる 1971年、奈良県橿原市生まれ。公益社団法人まちづくり国際交流センター勤務を経て、英会話教室を経営。同教室の運営の傍ら、2018年、げんきカレー橿原店を開店する。