【子ども食堂「げんきカレー」店長・齊藤樹さん】どの子も元気で健やかに――皆をつなぐ「みらいチケット」

経済的に困窮する家庭の子どもたちに、おなかいっぱいに食べて笑顔になってもらいたい――そんな願いから、奈良・橿原市で英会話教室を開いていた齊藤樹さんは2018年5月、一風変わった子ども食堂を始めた。その名は「げんきカレー」。この食堂には、一般の利用客の善意によって、子どもたちが無料でカレーを食べられる「みらいチケット」という仕組みもある。また、食堂ではボランティア講師の協力を得て、小中学生の学習支援も行っている。全ての子どもが健やかに成長するために奮闘努力する思いを聞いた。

無料塾での学習支援を週4日の営業日に開催

――「げんきカレー」はどのような食堂ですか

地域のどの子も、おなかいっぱい食べられるようにと開いた食堂です。私がカレーライスを作り、大人は200円、子どもには100円で提供しています。その後、経済的に困窮する家庭の子どもたちが、地域の方の善意で無料で食べられる仕組みもつくりました。

子どもたちが多く利用できるように、食堂は週4日営業していて、その日は無料塾を開いています。講師は、大学生や外国人たちがボランティアで務めてくれています。今、塾に通うのが普通のように言われますが、通えない子もたくさんいるんですね。すると、学力差はどんどん開くばかりです。こうした状態は、とても不公平だと感じていて、十分におなかを満たした後は、勉強ができる環境を整えたかったのです。

――「げんきカレー」を始めようと思ったきっかけは?

私は、英会話教室を経営していて、毎年夏休みになると、地域の子どもたちのために無料英会話教室を開催していました。外国人の講師が教えてくれることもあり、いつも大勢の子どもたちが足を運んでくれました。

ある時、参加した小学生の男の子が「英語を勉強できる人はいいな。うちにはそんなお金がないねん」と漏らしました。ひとり親家庭のお子さんで、普段から満足に食事ができず、ギリギリの生活をしていました。

私は子どもの貧困問題がこんなにも身近にあるのかと驚きました。自ら調べると、ひとり親世帯の半数以上が、生活苦に直面していました。さらに、食堂を開いた後のコロナ禍においては、非正規雇用の派遣切りや雇い止めに遭い、家賃も払えずに困っているひとり親家庭が急増したのです。

昔は、生まれた家が貧しくても、子どもは頑張って大学を卒業すれば、会社に正社員として就職し普通の生活ができるという社会でした。しかし、現在はそうではありません。経済的格差が、そのまま学力や人生経験などに大きく影響し、頑張りようがないまま貧困から抜け出せずに人生を送ることになるケースが多いのです。

日本は現在、子どもの7人に1人が貧困状態にあります。そうした現状を少しでも変えるには、まず子どもたちがおなかいっぱいに食べられる場所が必要だ。そう思って、格安でカレーを提供する場、そして誰でも通える学びの場をつくったのです。

――子どもたちが無料で食べられる仕組みとは何ですか

「みらいチケット」という仕組みです。大人の方がカレーライスのチケットを買って、そのまま店のホワイトボードに貼るもので、地域の子どもたちはそのチケットを利用して食事することができます。

うちの食堂は、子どもたちがいつでも気軽に立ち寄れる駄菓子屋のようなカレー屋さんがあったら、きっと喜んでくれるはずという思いからカレーをメニューにしました。低価格でカレーが食べられるとあって、オープン当初から大盛況で、15席ある小さな店内は、いつも人であふれていました。平日の昼間はサラリーマン客が大半で、夕方になると子どもたちもこぞって来店します。

子どもたちから「みらいチケット」を受け取り、笑みを浮かべる齊藤さん

しかし、ある日、「あかん、60円しかないわ」とがっくりと肩を落とす子がいました。100円が払えない子がいたんですね。すると、常連のお客さんが「この子の足らん分、出したるで」と言って支払ってくれたのです。

当時、他のお客さんからも「200円は安すぎるので、お釣りを寄付したい」という声が上がっていて、新たな作戦を思いついたのです。それが「みらいチケット」につながりました。お客さんが寄付してくれた200円分のこのチケットを使えば、子どもたちはお金がなくても食事ができます。地域で子どもたちを支える仕組みが一つできたのです。

この取り組みを始めると、お客さんからの善意が次々と寄せられて、店内のホワイトボードは「みらいチケット」でいっぱいになりました。今では、各地から視察に来られるようになりました。

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