【弁護士・指宿昭一さん】外国人技能実習制度をこれ以上、人身取引の温床にしないために
日本で働く外国人労働者は昨年末、過去最多を記録し、外国人技能実習生は就労資格者の中で最も多い約40万人を数える。一方、7月1日に米国務省が発表した「人身取引報告書2021」で、日本の外国人技能実習制度下で起きている事象が労働搾取として問題視された。多くの実習生が過酷な労働条件で働き続けるしかない状態に置かれているからだ。世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会「人身取引防止タスクフォース」も7月27日に、こうした人身取引に反対する声明を発表している。この問題に取り組む指宿昭一弁護士に、外国人技能実習制度下で起きている人身取引の実態を聞いた。
自由を奪い強制労働をさせることは国際的にも大きな問題
――外国人技能実習生の問題に取り組むようになったのはどうしてですか
2007年に弁護士になって初めて取り組んだのが中国人技能実習生の事件で、これがきっかけです。今考えると、技能実習生から搾取する典型的な事件でした。
基本給与が月4万円で、残業は月200時間を超え、休みはほぼなし。残業の時給は300円から450円でした。4人の中国人女性が、最低賃金を保障した正当な支払いを求めて労働審判を申し立てたのです。
3回の労働審判が終わり、調停による和解が成立した後、いつも淡々としていた彼女たちの一人が、「日本は怖い国で日本人は怖い人たちだと思っていたけれど、支援してくれた労働組合や弁護士など、日本にもいい人がいると分かってよかった」と言って初めて笑顔を見せてくれました。それまで笑わなかったのは、日本と日本人をすごく警戒していたからだったんですね。それを聞いて私は、うれしさ半分、あとの半分は、彼女たちのような状況の人がたくさんいることを想像して、とても大きな宿題をもらったと感じました。以来、仲間の弁護士と共に技能実習生の事件に取り組むようになりました。
――日本で発生している人身取引の実態は?
「人身取引」とは、暴力や脅迫、詐欺といった手段を用いて搾取する目的で人を受け取るなどの行為を指します。犯罪行為であり、「強制労働」と言った方が分かりやすいかもしれません。日本でも数多く発生しており、主たる一つが技能実習生に対する事件です。
労働基準法には、「暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」と記されています。ところが、技能実習生に対しては、過酷な労働環境のもとで働かせ、その上、労働基準監督署に訴えたら強制帰国をさせると脅し、最低賃金以下で働かせ続けるケースが数多くあります。これは、脅迫によって本人の自由を拘束して働かせているという意味で強制労働、つまり、国際的に禁じられた人身取引に当たります。本人が望んでいないのに、強制的に帰国させることも犯罪です。技能実習生に対する事件が人身取引に当たると理解している日本人は少ないのが現状ですが、国際的には大きな問題になっています。
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