【ルポライター・室田元美さん】戦争は今につながる出来事 現代社会の問題を捉え直す
相手への誠意や慈しみを 対話通し、真の友情を築く
――戦争を未来への教訓とするために大切なこととは
まず戦争について「知ること」が大切です。全国各地に戦跡はありますし、その土地で起きた惨事を伝え残そうと尽力されている方もいます。自分の住む場所で、戦時中にどんなことがあったのかを知るだけでも、戦争の受けとめ方は変わるでしょう。そこから始めるのをお勧めします。
私自身、高校時代に通学で利用していた鉄道の建設工事には、かつて朝鮮半島出身者が従事していたこと、事故による犠牲者が出ていたことを知りとても驚きました。間接的であっても、自分はそうした過去の歴史、つまり先の戦争と無関係ではないと思ったのを覚えています。自身との「つながり」を実感することで、戦争を身近に感じることでしょう。
戦時中の社会構造が現代まで引き継がれ、問題となっていることもあります。例えば、徴用工への賠償の決着について日韓で問題になっていますが、安価な労働力を外国に求め、労務環境に対して無責任だったことは、現在の外国人技能実習生らが直面する状況に類似していますね。彼らは低賃金である上に長時間労働を強いられ、中には耐えかねて自死を選ぶ人さえいると聞きます。
また日本軍「慰安婦」について感じるのは、本質的に女性に対する性的搾取の問題であるということです。これは、今でもなくなっていませんから、世界中に慰安婦問題を「自分にも関わりのあること」と受けとめ被害者に共感し、共に女性差別をなくそうと行動する女性たちが大勢います。差別や人権侵害は今も日本や世界で続いています。
戦争は単に過去の出来事ではなく、今につながる問題を含んでおり、先の戦争を通じて周囲の社会問題に目を向け、改善のために行動することが大切だと思います。
――今後、期待している部分はありますか
私は以前、日本、韓国、中国の学生が各国の戦跡を訪れ、共に慰霊をした後にディスカッションする6日間のワークキャンプを取材したことがあります。異なる歴史教育を受けた若者たちは、議論を通して互いを認め合い、最後には涙を流しながら再会を誓っていました。戦争の加害者、被害者という線引きをせず、事実を受け入れて一緒に未来を築いていこうという決意が、彼らをそうさせたのでしょう。その姿から出会いや対話の重要性に気づき、相手への誠意や慈しみがあってこそ、真の友情が芽生えるのだと教わりました。
新型コロナウイルスの世界的な流行という非常事態は、誰もが不安や恐怖を感じているという点で、戦時中につながる部分があると思います。互いに苦しんでいると認識できれば、あらゆる国や人種を超えて、人として相手を思いやる気持ちを持てるのではないでしょうか。そうした心境になれれば信頼関係をつくれますし、互いを尊重して対話を繰り返し、争いではなく平和社会を築くことができると確信しています。
プロフィル
むろた・もとみ 1960年、兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、女性誌のライター、FMラジオ番組の構成作家を経て、戦争に関する取材を行う。著書に『ルポ悼みの列島 あの日、日本のどこかで』『ルポ土地の記憶――戦争の傷痕は語り続ける』(共に社会評論社)など。