【映画監督、脚本家・村橋明郎さん】余命宣告受けた男の物語を映画に 懸命に自分らしく生きる姿を伝え

普段から自身の最期について家族と語り合える雰囲気を

――村橋監督にとって、「その人らしく生きること」とは?

自らの思いに忠実に生きることです。自分の意思を大切にして毎日を過ごすこととも言えるでしょう。

例えば、「嘘(うそ)をつかない」「人に優しくする」など、自分の中で大切にしている決め事、信念、価値観に沿って生きれば、おのずと、その人らしさがにじんだ、とてもすてきな人生になっていくと私は考えます。

作中の山中は、余命宣告を受けてから、自らの生涯を振り返るのですが、病を患うなどで人生を見つめる人は多いでしょう。元気な時は、この日常が続くと思いがちですからね。でも、人間はどんな人も必ず死を迎えるのですから、可能なら普段から自分の死というものを見つめ、どのような人生を過ごしたいかを考え、その信念に従って一日一日、一瞬一瞬を生きることが大事になると思います。

自らの信念をもって生きた毎日毎日の積み重ねこそ、最後に人生を振り返った時に必ず、「この人生は、幸せなものだった」と自分自身を納得させる大きな力になります。また、本人がそうした姿を見せることで、遺(のこ)された家族も、「これで良かったんだ」と安心してその人の死を受け入れやすくなるのではないでしょうか。

――自身の余生をどう考えていますか

父を看取ったこともあって私は、苦しんで延命治療を続けるより、残りの命を減らしたとしても楽に死ぬことを選ぶかもしれません。現時点では、故郷の墓に入りたいとはあまり思っていないかな。そうした自分の思いを家族には伝えています。延命治療や自身の眠る場所などに、こだわりがない場合でも、〈家族はきっとそのことを分かってくれている〉と思って、あいまいにしてしまうことがないようにと考えてのことです。「こだわりはない」とか、「迷ったらおまえが楽な方法を選んでほしい」と意思を伝えておくことが、家族に余計な負担を与えず、大事ではないでしょうか。

自分に意思疎通の力がなくなった時、治療方針の決定、臨終後の葬儀や埋葬は、全て、家族が行います。本人の意思が分からないと決断に迷いが生じて、故人を見送ってもなお、「本当にこれで良かったのだろうか」と、悩みの種を残すことになりかねません。伝えておけば、家族は納得できます。

普段から自分の最期について語り合える雰囲気をつくることが、より一層大事になると思います。

――撮影でこだわったことは?

末期がん患者と聞いて多くの方が想像するのは、痩せ細って血色が悪くなり、次第に生気が失われていく姿ではないでしょうか。しかし、作品を通して私は、自らの信念を貫き通した山中を暗いイメージで語っていません。命尽きるまで、自分らしく前向きに生きる姿を明るく美しいものと表現するために、例えば、山中が着ているパジャマの色をパステルカラーにするといった工夫を凝らしました。

対照的に、津田寛治さん演じる呼吸器内科医の今井俊行は、主治医として山中に寄り添い続けるうちに、やつれ果てていきます。

実際の医療現場でがん患者を看取る医師の中には、年間数百人の患者を看取る方もいると、映画の医療指導を担うスタッフから伺いました。

厚生労働省の人口動態統計によると、2018年の死亡者数は戦後最多の約137万人。その全てを医師が看取るわけではありませんが、超高齢化が進む中で、日本の多死社会化を支え続ける医療現場の大変さも、本作の中で描きたかったのです。

――最後に、読者に向けてメッセージを

この映画は、余命を告げられても意志を貫いて生きる山中、心をすり減らして患者に寄り添う主治医、それを最後まで見守る家族の姿など、一つの命の最期を複数の視点から見つめる内容になっています。きっと、ご自身や身近な方の姿を投影するような人物が登場すると思います。

死について考えることは、今、与えられている命をどう生きるかを考えることであり、生と死はそれぞれを分けて考えることはできないと私は感じています。映画をご覧になった方に勇気が湧き、それぞれに与えられた命を一所懸命に生きようという、前向きな気持ちを生むことができたなら、映画人としてこれ以上の幸せはありません。

プロフィル

むらはし・あきお 1954年、岐阜・関市生まれ。78年に日本大学芸術学部映画学科を卒業後、フリーの助監督を経て、87年、フジテレビスペシャルドラマ『オレゴンから愛’87』で脚本、92年に大阪ABC『豆腐屋直次郎の裏の顔』で監督を務める。以来、映画、テレビドラマ、舞台などで幅広く脚本、監督作品を手がけている。

©2019映画『山中静夫氏の尊厳死』製作委員会 (※クリックして拡大)

  • 公開情報
    『山中静夫氏の尊厳死』
    全国で順次公開
  • 配給・宣伝=マジックアワー、スーパービジョン
    公式ウェブサイト https://songenshi-movie.com/
    ※上映予定は公式ウェブサイト参照