【基督教独立学園高校前校長・安積力也さん】次世代のために、今、大人たちがやるべきこと

今年4月には「平成」が幕を閉じ、新たな時代へと突入する。2045年には人工知能(AI)が人間の知能を超えるといわれている。未来を生きる若者たちに、今、必要なこととは何か。キリスト教の精神に根差し、40年以上にわたって教育現場に立ち続けた基督教独立学園高校前校長の安積力也さんに、現代を生きる若者の苦悩や、これからの時代を生き抜くために必要なことを聞いた。

若者の思いに耳を傾け 自らも心の闇に向き合う

――現代社会を生きる若者の心の中は今、どんな状態ですか

最近、私を訪ねてきた女子大生の話をします。彼女はシェアハウスに住みながら、日本の最高レベルの大学の一つに通う4年生です。最初にこう訴えました。

「私たち、みんな、何となく孤独で、何となく不安なんです」

これは現代の若者たちの心情を見事に言い当てています。心の中は一人っきりなのに、それを語る時の主語は「私たち、みんな」。そして、必ず「何となく」が付く。「私」を主語にした言葉がなく、「私の心」を的確に語る言葉がないのです。

シェアハウスに住んでいるのに、なぜ、何となく孤独で不安なのか。5時間ほど彼女の話を聴く中で見えてきたのは、自分の存在を“確か”にするものを持たず、自分の心と向き合う経験を驚くほどしていないことでした。

私たちは、何かによって自分の存在を確かにしないと生きられません。そのため、多くの人は血縁や地縁、企業、教会といった集団に帰属して自らの存在を確かにしようとします。しかし、若者世代は、そうした今ある確かさが本当は不確かだと気づき始めています。

先の大学生は、私の前で自分と向き合い、不安な心の奥底にあるものを見極めようとしました。そして、「もうすぐ“時代の終わり”が来る」という強い不安と予感を自分が持っていると知ったのです。そして、スッキリした顔立ちになって「今日という日を、毎日しっかり生きていきます」と言って、帰っていきました。

実は私たち大人も、同じような孤独や不安を抱えています。でも、それを直視すると仕事や日々の生活が手につかなくなる。だから、無意識に心にふたをして、何事もないかのように毎日を過ごしています。子供や若者は、こうした大人たちの姿から「巧妙に問題から目をそらす術(すべ)」を学び取り、自分の心と向き合う経験をせずに大人になる。その不確かな感覚が「何となく」という言葉に表れるのだと私は思っています。

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