【登山家・貫田宗男さん】果てることのない山の魅力、冒険心を持って挑み続け
梅雨が明け、登山シーズンが到来した。日本人は古来、山に畏敬の念を抱き、自然の恵みに感謝して生きてきた。2016年に「山の日」が施行され、8月11日が国民の祝日となり、山に親しむイベントが各地で催されている。テレビ番組でも活躍する登山家・貫田宗男さんに、登山の魅力と山登りでのリスク管理、登り方の留意点などを聞いた。
憧れの「アルプス」へ 巡り来る登山ブーム
――山に登り始めたのはいつ頃ですか?
中学2年の時、兄が私を奥多摩(東京)に連れて行ってくれたのですが、その時、登山というものに興味を持ちました。幼い頃から体が弱く、勉強もできず、体は大きいだけで運動神経も良くない。そんな私が、奥多摩の山道を歩き、すがすがしい空気を全身で感じ、缶に入った固形燃料でお湯を沸かしたりすることがとても楽しかったのを今でも覚えています。
高校に進学後、体力を付けるために運動部に入ろうと考えていた時に、ふと、奥多摩での経験を思い出しました。それと、<下を向いて耐えながら山頂まで歩くだけなら、運動神経がなくてもできるかな>という思いも湧き、山岳部に入りました。しかし、この安易な決断が大きな間違いでした。
当時の登山トレーニングはとてもめちゃくちゃでした。入部して最初の登山は、大きな石を入れたリュックを背負って丹沢(神奈川)の尾根を歩き、山頂に石を置いて帰ってくるというものでした。大人の登山家がするようなトレーニングを、まだ肉体的に出来上がっていない高校生が行うことは非常に危険です。私はこの時に、リュックサックのストラップで血管が締め付けられ、右腕がまひ状態になり、1カ月間ほど動かせなくなりました。
夏休み明けに回復するのですが、それまでに先生や先輩、家族、医師から「部活をやめたほうがいい」と強く勧められました。でもやめなかったんですよね(笑)。
――体を痛めたのに、やめなかったのはなぜですか
高校1年の夏に南アルプスの高地から見た景色に感動した、そのことが大きな理由でしょうか。
右腕がまひした影響で、山岳部の夏合宿に参加できなかった私を中学時代の理科の先生が心配し、南アルプスの白峰三山と呼ばれる北岳、間ノ岳、農鳥岳の縦走に連れて行ってくれたのです。
当時、「アルプス」という名称に強い憧れを持っていました。途中、苦しさもありましたが、3000メートル級の高所から眺める景色は絶景で、目の前に広がる雲海に心から感動しました。それに、縦走を成し遂げた達成感と自信を得たことも大きかったと思います。