作家・石井光太氏の書籍『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』が発刊

本紙の連載『現代を見つめて』の著者で、作家の石井光太氏の『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)がこのほど出版されました。

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2015年2月20日、神奈川・川崎区の多摩川河川敷で中学1年(当時)の男子生徒が、3人の少年にカッターナイフで43回切りつけられ、殺害された。日本では毎年、40~60人の未成年者が殺人で検挙されている。この事件は、そのうちの一つに過ぎないのだが、社会の注目を集め、河川敷には全国各地から1万人以上が弔いに訪れた。

本書は、石井氏が事件を追ったルポルタージュ。犠牲者の父親をはじめ、事件関係者や被害者を知る少年へのインタビュー、加害少年の裁判の傍聴など、1年半以上にわたって取材を重ね、事件当日の状況や加害少年が殺人を犯した背景を探り、深層に迫っている。

例えば、主犯の少年A。報道では彼の残虐性ばかりが指摘されたが、幼少期のAを知る周囲の印象は、「家族思いの良い子」だった。

日本人の父親とフィリピン人の母親の間に生まれたAは、厳格な父親からしつけと称し、体罰を受けていた。父親は愛情を持って接していたつもりだが、Aは愛情とは感じず、いつしか「話を聞いてくれない」「どうせ自分は理解されない」と考えるようになっていた。

こうした家庭環境が影響し、Aは友人と衝突するようになる。小学校では同級生からいじめられ、中学校では下級生の不良グループからも目を付けられ、ついには不登校に。家庭や学校で居場所を失った彼は非行の道に吸い寄せられるように進み、やがて殺人事件を起こしてしまうのだ。

事件の発端とは何か――それは、親の愛情の掛け違いから始まったとも言える。その意味で、著者は「今回の事件はどこの家庭においても起こりえる」と指摘する。こうした悲劇の再発を防止するには、事件を教訓として、誰もが自らの家庭で起こり得ると受けとめ、親子や家族の関係を省みていくことが必要だ。それが犠牲となった生徒の「死を社会の中で意味のあるものにすることにつながる」と著者は訴える。

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『43回の殺意――川崎中1男子生徒殺害事件の深層』
石井光太著
双葉社
1500円(税別)

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