バチカンから見た世界(174)文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

-「平和の神学」を説き続けるレオ14世(3)-
ローマ教皇レオ14世は2月8日、バチカン広場での日曜恒例の正午の祈りの機会に、「平和のために祈り続けよう。経済・軍事大国の戦略は、歴史が教えているように、人類に未来を与えない。未来は、尊重と諸国民間での友愛にある」とアピールした。
スピーチの終わりに挿入された前後関係の無い、短いアピールで、正直なところ理解し難い発言だった。だが、国際NGOのオックスファムが発した最近の警鐘や、米国と中南米における宗教地政学の動きを念頭に置いて考察すると、教皇の意図するところが明確に浮き上がってくる。
オックスファムが発した警鐘は、トランプ政権による富裕層優遇策などにより、世界における富と権力の集中が進み、「超富裕層の資産や影響力が民主主義や人権を脅かしている」というものだった。トランプ大統領の信奉するキリスト教の福音派(エヴァンジェリカル)は、富の蓄積を「神からの祝福」として教える。「米国を再び偉大とする(MAGA)ために神によって(狙撃事件から)命を救われた」と信ずるトランプ大統領は、米国が(神から祝福されて)蓄積した経済・軍事力を使い、西半球を自国の影響下に置くことを試みる。そのために、公平な富の分配などを主張する社会主義を敵視し、ベネズエラに軍事介入したり、キューバの政権を威嚇したりしている。
最近のオバマ大統領夫妻を「猿」に模した動画を自身のSNSに投稿し、白人至上主義的な傾向をも見せるトランプ政権に対し、有色人種を多く抱える中南米においては、開発途上国や貧困国が多数を占めている。中南米諸国のキリスト教は、「解放の神学」に代表されるように、「貧者の選択」を聖書の教えとして説き、不正なる富の蓄積を許す、世界経済システムからの人間の解放を訴える。中南米のキリスト教徒にとって、富の蓄積は「神からの祝福」ではなく、不正義という「神に対する罪」なのだ。
この、真っ向から対立する二つのキリスト教の間で、米国と中南米のカトリック教会が真っ二つに割れた。トランプ政権の目玉である反移民政策、貧者を生み出す不正義な世界経済機構、先進諸国が最大の責任を有し、貧困国が最大の害を被る環境破壊と気候変動などの問題に関し、同政権と厳しく対立したのが、アルゼンチン出身の教皇フランシスコだった。
米国のカトリック教会も、二つに分断された。米国のカトリック教会で育ち、長年にわたり中南米のカトリック教会で司牧活動を展開した教皇レオ14世に、米国と中南米のカトリック教会を再び結び付け、米国カトリック教会内での分断を癒やしていく任務が負わされている。カトリック教会史上初の米国人教皇はここ9カ月間、米国の首都・ワシントンDCや、同国で最も重要なニューヨーク大司教区長の任命などを通し、米国カトリック教会の変革を行ってきた。そうした教皇の努力に呼応し、今までは静観していた枢機卿たちが、声を上げ始めた。3人の枢機卿が「トランプ政権の外交政策に倫理規範を要請」するようになり、2月6日には、教皇によってニューヨーク大司教に任命されていたロナルド・ヒックス大司教が、聖パトリック大司教座聖堂で着任ミサを挙げた。
多くの中南米系の信徒を含む、約120万人の信徒たちを指導していかなければならない新大司教は、教皇と同じシカゴ大司教区の出身であり、南米(エルサルバドル)で孤児院の経営に携わった経緯を有する。そのため彼は、ミサの説教をスペイン語で始めた。説教の中で新大司教は、「カトリック教会は、会員のためだけに存在するカントリークラブではなく、宣教のために“外に出ていく”教会であり、全ての人に奉仕する」と位置付けた。“外に出ていく教会“は、教皇フランシスコの説いたカトリック教会の指導方針であり、同教皇は、その教会が“全ての人”に門戸を開放していかなければならないことを、“todos! todos! todos!”(スペイン語で“皆”)と3回も叫び、強調していたことがあった。新大司教も、それに倣い、3度、繰り返した。さらに、「われわれは、キリストに従うために存在するが、キリストは、飢える者に食を与え、身体と精神の病に苦しむ人を癒やし、憎しみを拒否しながら愛を説いた」と述べ、教皇フランシスコのカトリック教会の指導方針を継承する教皇レオ14世に対する支持を明確にした。





