バチカンから見た世界(148) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
ピッツァバッラ大司教は講演で、イスラエルとパレスチナ間における癒しと和解のプロセスにおいては、「正義と真理」が重要であると説いた。
正義とは、双方を公平に扱い、ヨルダンのラーニャ王妃が戒めるように、イスラエル一辺倒を克服することだ。真理とは、歴史的事実の認識のことだ。この視点から、ここ数日間、欧米を中心とする国際世論の間で、イスラエル一辺倒の支持を克服し、両者間での公正な立場から中東戦争の解決策を模索しようとする動きが見え始めた。
イタリアの「ANSA通信」は2月1日、米国務省のアンソニー・ブリンケン長官が同省内で「パレスチナ国家を認可し、国連加盟に対して米国が拒否権を行使せず、世界の各国にパレスチナ国家を承認するように奨励する選択肢を検討するように、との指示を下した」と伝えた。また同日、米国のバイデン大統領が、パレスチナ領ヨルダン川西岸地区でイスラエル人の過激派入植者による一般市民への(武装)暴力行為が「容認できないレベル」に達しているため、全中東の平和と安全保障を脅かすとの理由で、4人のイスラエル人過激派入植者を制裁の対象にする大統領令に署名したことを明らかにしたと報道した。このバイデン大統領の措置に対し、イスラエルのネタニヤフ首相と同政権を構成する最極右勢力は、激しい怒りを表明している。
米国安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は1月26日、ジェノサイド(民族大量虐殺)を防ぐ措置としてイスラエルに命じた国際司法裁判所(ICJ)の仮処分(暫定措置)に関し、「多くが米国の立場と一致している」との見解を表明(「47NEWS」=1月27日)。イスラエル国内では、ネタニヤフ政権を構成する極右勢力が「パレスチナ領ガザ地区にユダヤ人が再入植し、パレスチナ人をガザの外に移住させよう」などと主張する中、イスラエル北部ハイファで2月2日、反戦集会が開かれた。ユダヤ系、アラブ系の住民約1000人が参加し、即時停戦を求めた。戦闘を巡って住民間の分断が深まる中、集会に参加した住民は「ユダヤとアラブの共存」をも訴えたと「47NEWS」は伝える。
イスラエルとパレスチナ間で揺れ動く振子の針を、公正で通常の位置に戻す努力を如実に示したのは、米国と欧州11カ国の800人を超える外交官や政府関係者が署名し、英国国営放送「BBC」や米国の「ニューヨーク・タイムズ」紙が報道した「公開書簡」だった。
同書簡は、昨年10月7日にハマスによって実行された攻撃に対し、イスラエルがガザ地区で展開する軍事活動を「国際法の重大なる蹂躙(じゅうりん)」として糾弾し、「今世紀最悪の人道災害と民族浄化、民族大量虐殺の可能性が、西洋(諸国)の加担を得て実行された」と非難する。同時に、各国政府に対しパレスチナ問題に関する政策の再考を促している。英国のデーヴィッド・キャメロン外相も、ガザ地区での戦争終了後にパレスチナ国家を承認したい意向を表明している。