バチカンから見た世界(145) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
同誌は、このユダヤ教信者に対する呼びかけが、キリスト教・ユダヤ教間対話や諸宗教間対話のテーマにならなければいけないともアピールしている。「2国家の共存解決策」は、国際世論の主流に支持されながらも、その実現には逆境的な条件が多い。だが、中東紛争の唯一の解決策は2民族の共存以外にないと信じ、それを実践するグループがイスラエルにある。聖都エルサレムとテルアビブの中間に拠点を持つ「ネーブ・シャローム/ワハット・アル・サラーム」(ヘブライ語とアラビア語で「平和のオアシス」の意)だ。
同グループは、「私たちは同一(民族)ではなく、違っている。問題なのは、違いにかかわらず、どう共存していくか」を問い、1972年にカトリック教会ドメニコ会に属するブルーノ・フッサール神父によって創設された。93年には、「第10回庭野平和賞」を受賞した。
同共同体では、同じ数(現在約60)のイスラエル人とパレスチナ人の家族が共同生活を営んでいる。託児所や小学校ではヘブライ語、アラビア語で教育を行い、互いが相手の歴史や伝統を学ぶことで、幼児教育の段階から相互理解の基礎作りをしている。また、両民族の青少年を対象とした「平和学校」を併設し、両民族間に横たわる憎しみを克服し、友愛の醸成を実践することでそれぞれが地元で「平和の大使」となる教育を展開している。
さらに、相互の宗教であるユダヤ教とイスラーム、キリスト教の儀式、伝統、聖域を尊重し、中東3宗教間での融和を積極的に訴え、実践している。同共同体に対する、庭野平和賞の贈呈理由は、「現在ではイスラエルのみならず、中東の多くの人々、宗教者に勇気と希望を与えています」であった。