バチカンから見た世界(144) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

3宗教間の融和なくして中東和平は実現できない(3)―イスラエルのユダヤ人国家宣言―

バチカンは、中東紛争の「唯一可能な解決策としての2国家原則」を主張し、すでにパレスチナを国家として承認している。主要7カ国(G7)も11月8日、東京での外相会議で、「イスラエルとパレスチナが共存する『2民族2国家解決策』が平和につながる唯一の道だという立場を共有した」(8日現在、共同通信社=47NEWS)。

国連や国際世論の主流は、国際法によって定められた2国家原則を支持するが、これについてイスラエルは沈黙している。それどころか、国際法違反とされるパレスチナ領ヨルダン川西岸地区でユダヤ人の入植活動を強力に推進し、パレスチナ人が未来の国家の首都と主張する東エルサレムのユダヤ化をも推し進めている。

特に、昨年末に極右ユダヤ教勢力を巻き込んだ、イスラエル史上「最極右」と呼ばれるネタニヤフ政権の樹立以来、その傾向をより強くしている。「共同通信」(47NEWS)は今年の3月20日、「イスラエルの極右閣僚、スモトリッチ財務相がパリで開かれたユダヤ系フランス人の会合で、『パレスチナ人など存在しない』『(彼らの)歴史も文化もない』と暴言を吐き、壇上に『大イスラエル』と称された地図が示され、ヨルダンもその中に含まれていた」と伝えていた。ヨルダン政府は、同国イスラエル大使を呼び出して抗議したとのことだ。ネタニヤフ政権の中には、2国家原則どころか、パレスチナ領、ヨルダンをも含めた地区に「ユダヤ王国」を建国しようと試みる、極右ユダヤ教勢力が存在しているのだ。

イタリアでの第二バチカン公会議(1962~65年)の精神を実現しようと努力するカトリック教会の在家運動体「Viandanti」(巡礼者)の機関誌(同名)は、「イスラエル/ユダヤ民族国家」と題する記事を掲載。イスラエルの極右ユダヤ教思想の台頭に大きく貢献した要因として、2018年にイスラエル議会が採択した、ユダヤ人のみに自決権(参政権)を認めた憲法改革法案「ユダヤ人国家法」を挙げた。