バチカンから見た世界(139) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「ナクバの日」に中東和平を願う宗教者たち
ローマ教皇フランシスコは5月14日、日曜日恒例であるバチカン広場での正午の祈りの席上、悪化する中東地域での紛争状況に対する憂慮を表明し、「ここ数日間、イスラエル人とパレスチナ人との間に新たな武力衝突が発生し、女性や子供など無実の人々が命を失っている」と述べた。
また、「(13日に)合意された停戦が安定したものとなり」「兵器の轟音(ごうおん)が止(や)むように」と願い、「武器(の使用)は安全保障と安定を成立させず、あらゆる平和への希望を破壊し続けていく」と戒めた。
1948年5月14日、イスラエルが建国され、70万を超えるパレスチナ人が先祖代々にわたって住む土地を追放され、ヨルダン、レバノン、シリアなどに逃れて難民となった。バチカンが国家として承認するパレスチナとその国民にとって、5月15日は「ナクバの日」と呼ばれ、彼らに強いられた「大悲惨」を追憶する日だ。世界で最も長い紛争と呼ばれ、現在も解決への道筋が全く見えない「中東紛争」の始まりを思い返す日でもある。
パレスチナ人は、今年の「ナクバの日」を最悪の状況で迎えたといえるだろう。昨年末に樹立したネタニヤフ政権は、イスラエル史上で最右翼といわれており、中東紛争の「2民族2国家解決策」を無視して、国際法違反とされるパレスチナ地域への入植政策を強力に遂行しているからだ。さらに、中東3大宗教の聖跡が混在する東エルサレムのユダヤ化を推進しており、同地にあるイスラームの聖地「アルアクサ・モスク」(ユダヤ教では「神殿の丘」)では、ネタニヤフ政権を支持する極右ユダヤ教勢力がムスリム(イスラーム教徒)を挑発。ガザ地区を実効支配するイスラーム過激派組織ハマスとイスラエル軍との武力衝突を誘発し、同国軍による空爆や鎮圧作戦で多くのパレスチナ人が犠牲となっている。
こうした状況を憂うエルサレムのキリスト教諸教会の指導者たちは、今年で76回目を迎えた「ナクバの日」を機に合同でメッセージを公表した。この中で、「神が、より良き未来に向けて歩むための叡智(えいち)を与えてくださり、パレスチナ国民の自決権、建国の権利と繁栄が保障され、中東諸国民が平和、尊厳、繁栄の中で生活できるように」と願った。