バチカンから見た世界(132) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
アフリカ大陸に手を伸ばすな――教皇がコンゴからアピール
ローマ教皇フランシスコは1月31日から2月5日まで、コンゴ民主共和国(旧ザイール)と南スーダンを訪問するため、イタリアのフィウミチーノ空港を飛び立った。
教皇は、サハラ砂漠上空を飛行する教皇専用機の中で随行記者たちにあいさつ。「いくばくかの幸せと自由を求めてサハラ砂漠の縦断を試みながらも、それをできずに亡くなった全ての移民、難民に思いを馳(は)せ、沈黙のうちに祈ろう」と呼びかけた。「砂漠をわたり、地中海の沿岸に到着できたとしても、強制収容所に入れられ苦しむ人がいる」からだ。
サハラ砂漠以南の国々では、自然資源や若い人材(人口)に恵まれながらも、欧米による過去の植民地主義から脱却できず、国内の民族紛争、周辺諸国の武力侵攻、宗教を名乗る国際テロ組織の横行、政治指導者の汚職などによって多くの人々が貧困に苦しんでいる。そこに住む若者たちは、欧州大陸での“人間らしい生活”を夢見て貧困地域を後にし、砂漠、収容所、地中海という三つの死線を越えなければならない。地中海沿岸にある収容所での生活を終えても、移民、難民の「巨大な墓地」となった地中海が待ち受ける。
機上での教皇の発言は、コンゴから発したメッセージの内容を予告していた。同日、首都キンシャサに到着した教皇は、政府関係者、市民社会の代表者、同国駐在の外交団に対して最初のスピーチを行った。この中で、コンゴが持つ自然の美しさに比べ、同国の歴史の中では、「戦争に悩まされ、(今でも)人間と創造(自然)にふさわしくない国内紛争と、(住民の)強制疎開、恐るべき形での搾取」が行われ、いまだ「忘れられた民族虐殺」に直面していると告発。同国の未来が、「あなたたちの手中にあるように」と願い、兄弟姉妹たちが「再び立ち上がり、あなたたちのアイデンティティー、尊厳性、住む家を、調和と平和のうちに保全する使命を自身の手中に収めていくように」と励ました。
コンゴは、金、ダイヤモンド、銅をはじめ、電化製品に欠かせないタンタル、スズ、タングステンなどの鉱物資源に恵まれる。中でも、コバルトは世界生産量の5割以上を占め、希土類(レア・アース)も産出する。だが、教皇は、「地中に埋もれている物的資源」もさることながら、「心の中に埋もれている霊的資源」がさらに重要だと指摘した。なぜなら、「神の助けによってのみ、人間は正義、許し、協調、和解、与えられた個性を実現するための忍耐を得られる」からだ。
一方、「暴力と憎悪は、反人間的、反キリスト教的な感情であり、発展を麻痺(まひ)させ、過去の暗黒へと引き戻す」と警告。アフリカ大陸の国々が、いまださまざまな形の搾取に苦しんでいることを「悲劇」と称し、「アフリカを利用(搾取)すべきだ!」という主張を糾弾した。そして、コンゴが政治だけでなく、経済的にも搾取されていったプロセスに憂慮を表明した。
コンゴの人々は、他国からの略奪によって、自国が有する膨大な資源の恩恵を受けられなくなっている。同国の貴重な資源であるダイヤモンドは、紛争により「流血のダイヤモンド」となってしまった。
教皇は、アフリカ大陸の国々が強いられている「悲劇」を前に、先進諸国が「目、耳、口を閉じている」と非難。「アフリカ大陸から手を引け! アフリカ大陸を窒息死させるな! アフリカは、搾取すべき地下資源や略奪される土地ではない。アフリカが、自身の宿命の主人公であれ!」と訴えた。
さらに、「世界が何世紀にもわたり、アフリカの人々に対して行ってきたことを記憶し、この国と大陸を忘れないように」とも主張。そのためには、「人間による人間のための、民による民のための外交を幅広く展開し、土地や資源を管理し、勢力の拡大、利潤の追求ではなく、国民の成長を中心に置かなければならない」と述べた。