バチカンから見た世界(124) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

一方、8月31日の開会式でスピーチしたドイツのシュタインマイヤー大統領は、「ロシア正教会の指導者たちは、彼らの信徒と教会全体を、私たちの信仰(キリスト教)に反する危険で真なる(神の)冒とくの道に導いている」と厳しく非難。「彼らは、自身の、そして、私たちの兄弟姉妹であるウクライナ人に対する侵略戦争を正当化している」と指摘し、「この世界大会の場においても、他国市民の自由と市民権を侵すプロパガンダ(扇動)と、帝国主義的覇権という独裁の夢を、意図的に『神の意志』として主張することに反論していかなければならない」と訴えた。

開会式でスピーチしたドイツのシュタインマイヤー大統領

また、同大統領は「対話」についても言及し、「対話が不正義に注意を払い、誰が犠牲者で、誰が殺戮(さつりく)者、虐殺者であるかを明確にしなければならない」と主張。「ロシア正教会の神父たち数百人が、プーチン政権から圧力を受けながらも、ウクライナ侵攻に反対する立場を公式に声明している」と話し、「彼らがこの世界大会に参加し、スピーチをできなくても、彼らの声が大会に反映されるように」と願った。

さらに、「ロシア正教会の指導部は、ウクライナ侵攻で起きた戦争犯罪に同調した。この全体主義的イデオロギーは、神学の仮面を被(かぶ)り、多くの宗教施設を全面的に、あるいは、部分的に破壊した」と指摘した。

これを受け、ロシア正教会の使節団を率いて世界大会に参加するモスクワ総主教区大主教のアントニー・ヴォロコラムスク外務部長は発言に立ち、「(同大統領の糾弾は)根拠の無い非難であり、モスクワ総主教区がウクライナでの“衝突”という状況の中で実行した人道援助を完全に無視し、WCCの世界大会がロシア正教会を非難するようにという明らかな要請である」と反論した。

さらに、同大統領の見解を、「最も古い歴史を有するエキュメニカル(諸教会間)機関に対して、国家最高指導者が野蛮な圧力を行使した一例」と批判。「WCCの内部問題に対する干渉であり、和平活動と政治的中立を堅持する立場を疑問視する試みである」とも非難した。

また、ヴォロコラムスク外務部長は「(WCCは)対話、平和、相互理解を促進していくための最大のエキュメニカル機関である」というサウカ暫定総幹事の発言に触れ、「サウカ暫定総幹事自身が、世界大会におけるモスクワ総主教区の参加の重要性を強調している」と主張。WCCが「特定国家の部分的な政治見解に従うことなく、平和と調和の構築を目標とする、独立した対話の場であるように」と願った。