バチカンから見た世界(119) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
4月6日、教皇は水曜日に恒例となっているバチカンでの一般謁見(えっけん)に臨み、席上、マルタ訪問を振り返った。この中で、今なお、「強権的な国々が、自国の経済、イデオロギー、軍事的影響力を行使できる地域を拡大させ、自国の利益を主張しようとする論理が主流となっている」現状を非難。「その論理の行き着くところを、私たちは、ウクライナ戦争のうちに見ている」と述べた。
また、教皇は、第二次大戦後に新たな平和の歩みを確立する試みがなされたが、残念ながら、人類は過去の教訓に学ばず、大国同士の対峙(たいじ)という古来の歴史的図式に沿って歩んでしまったとの考えを表明。現在のウクライナ戦争に対して、国連が機能不全に陥っていることに憂慮の念を示した。
では、教皇が指摘する“拡大された冷戦”とは何か――4月3日付のイタリア日刊紙「ラ・レプブリカ」は、『モスクワと反西洋(欧米)同盟』と題する論説記事を掲載し、その具体例の一つを提示。同記事は、「(ロシアの)プーチン大統領とセルゲイ・ラブロフ外相の構想では、中国とインドが“巨頭国クラブ”のメンバー」「(ロシアの)両指導者は、米国と北大西洋条約機構(NATO)の役割を縮小させるため、新しい世界秩序の構築を目指している」と報じた。
ラブロフ外相は3月末から4月初旬にかけて、国際社会でロシアの孤立が深まる中、中国とインドを相次いで訪問している。同紙は、この訪問によって、「ラブロフ外相が、3国間における(経済や防衛などの分野で)合意を強化することで、年内にも3カ国の首脳によるサミット(それぞれの頭文字をとって“RIC”)を招集できる自信を得た」と報じている。
中国は、ロシア軍のウクライナ侵攻を明確に非難せず、その原因をNATO軍による東欧での勢力拡大政策にあるという立場を表明し、ロシアに対する経済制裁にも参加していない。インドも、ウクライナ侵攻を非難せず、経済制裁も実行していない。その中でインド訪問中のラブロフ外相は、両国の通貨(ルピーとルーブル)を基盤とする金融・通商合意に向けた道を模索する約束を得たとのことだ。
中国、インド両国は、3月2日の国連総会緊急特別会合で採択されたロシア非難決議で棄権した。ブラジル、南アフリカ、パキスタンなど35カ国も同様の対応をした。同紙はこのことに注目し、「灰色の地区」と呼べるこうした国々が、RICの陣営に勧誘される可能性についても報じている。また、米国は、ロシア産原油の輸入禁止を経済制裁の一部として実行しているが、石油輸出国機構(OPEC)のサウジアラビアとアラブ首長国連邦が、不足するロシア産原油分を補うための増産を拒否している事実も挙げている。
同紙は論説記事で、「2月24日(ウクライナ侵攻が始まった日)は、世界秩序の劇的な分水嶺(ぶんすいれい)の最初の一駒に過ぎない」と結論付けた。このような世界の分断が進めば、民主主義同盟(欧米)と専制主義同盟(RIC)の対立が大きな問題として顕在化することになる。