バチカンから見た世界(118) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

アフリカで胎動するWCRP/RfPのモーリシャス諸宗教評議会

モーリシャスはインド洋に浮かぶ島国だが、アフリカ諸国に分類される。宗教的にはヒンドゥー教徒が国民の半数を占め、キリスト教、イスラーム、仏教などと続く多宗教の国だ。

同国の諸宗教対話・協力は1994年に始まった。89年の国連総会で、94年を「国際家族年」にすることが決議され、同国の「女性の権利・子供の発育・家庭福祉」省が国民に対してより良い生活を保障するため、諸宗教指導者で構成される委員会を設置したことが契機となった。諸宗教対話・協力の取り組みは96年から99年まで、カッサム・ウティーム大統領によって設立された「諮問評議会」で続けられた。2000年にニューヨークの国連本部で「宗教者・精神的指導者による『ミレニアム世界平和サミット』」が開催されたのを機に、翌01年、大統領府付の諮問機関から「諸宗教評議会」として独立した。

同評議会は、ヒンドゥー教、キリスト教、イスラーム、仏教、バハイ教の5宗教で構成され、「諸宗教対話を通した、平和の促進とモーリシャス国民の生活向上」を目的に掲げる。09年初頭から、アフリカ大陸で活動するアフリカ宗教指導者評議会(ACRL)との連携を開始した。ACRLは03年、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)国際委員会の主導により設立された全アフリカ諸宗教協力組織だ。09年6月には、当時のACRL事務総長であったムスタファ・アリ博士がモーリシャスを訪問し、同評議会のACRL加盟が決まった。

ユニークな存在でありながら、なかなか国際的につながる手段を持てていなかったアフリカの島国の諸宗教評議会が、WCRP/RfPの国際ネットワークを通して、アフリカ諸国で活動を展開するWCRP/RfPの各国委員会、各国政府間の組織や国際協力団体と連携していく道を見いだしたのだ。モーリシャスの宗教指導者たちは、ケニア・ナイロビを拠点にアフリカ27カ国で活動を展開するACRLに加盟したことで、「孤立を克服でき、WCRP/RfP国際委員会と協力し、世界家族の一員として活動できている」と表明する。

バチカンの公式ニュースサイトである「バチカンニュース」は1月14日、モーリシャスの諸宗教評議会が「諸宗教の世界日」(毎年1月の第3日曜日)に向けて声明文を発表したと報じた。この中で、「それぞれの宗教が、他者への奉仕と善意の精神を説いており、その教えが具現化されれば、不信と憎悪の壁を打ち破り、人類を分裂させる壁をも崩壊させる。個人、社会、世界レベルでの平和構築の鍵となる」と強調。「全ての人が情愛と慈悲を施し、他者に対して無償の奉仕を実践すべきだ」と訴え、「全ての宗教が、創造主、生命や生活の意味、死後の世界、宇宙における私たちの存在、犠牲の意味、私たちを共通善(公共の利益)へと誘(いざな)うさまざまな原則に関して、同じような教えを説いている」と述べている。

また、「私たちは現在、(新型コロナウイルスの世界的な流行という)生きていくのに困難な状況にあり、宗教は社会の中で孤立し、苦しんでいる人々に対して慰めを運ぶという重要な役割を持っている」と指摘。「人類と私たちの祖国は、この危機を乗り越え、より安全で、正義に適(かな)った世界を構築していくために、相互愛と協力のうちに市民社会を結び付けていく宗教を必要としている」との見方を明かした。

世界各国の政府に対しては、「真理、誠実さ、公平、正義を基に国政を運営し、寛容の促進、紛争の予防、さらに地域、国、世界レベルでの(宗教の)迫害を廃絶するように願う」と呼びかけている。

一方、諸宗教対話・協力による自国での活動についても表記。モーリシャスの社会に広がる同ウイルス感染症の誤った情報、生活形態の変更による課題、身体的、心理的、経済的に影響を与える女性や少女に対する性差別、暴力などの問題に対処していく上で、信仰が大きな役割を果たしている事実を示す教育用ブックレットを発刊した。国内唯一のテレビ局とも提携し、問題解決に向けた国外の諸宗教者とのオンライン会議の模様を放映し、啓発活動にも力を注いでいる。