バチカンから見た世界(115) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

民主主義と政治の根源的意味を問いかける――貧者たちの連帯と運動

「誰一人取り残さない」――国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる理念だ。果たして各国の政治はその方向に進んでいるだろうか。

21世紀に入って20年が過ぎたが、大衆の不安をあおりながら、選挙での勝利や政権の維持だけを求めるポピュリズム(大衆扇動主義)や、民主主義を装いながらも法律を変更して自らの政権の存続を図る政治体制が世界各地で見受けられる。いずれも、「国民不在」ではないものの、「国民を自らの権力保持のために巧みに利用する」ところに共通点がある。極右キリスト教原理主義勢力を支持基盤とするポピュリストの政党や政権、過去のイスラームの栄華を郷愁し、同教保守主義を現国家のアイデンティティーとしようと試みる強権政権もあれば、一つの政党内の派閥抗争によって国政が左右される国もある。

また、自国至上主義を掲げる強権的な政権の誕生によって、国と国との関係が緊張し、核兵器や極超音速ミサイルの開発を含む軍拡競争が激化してきた。世界がブロックに分断され、ブロックに属さない国の貧困が進んだ。気候変動、さらに新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が各国の経済格差をさらに広げ、大量の難民、移民を生み出している。一方、国内においては、政権に利用されるばかりで、パンデミックに由来する生活苦を解決してくれない政治に対して国民の不信が募り、民主主義の最良の実践手段とされる選挙で投票しない傾向が続く国家もある。各国で「沈黙の多数派」(silent majority)と呼ばれる“政党”が、国の第1党になっている。「民の民による民のための政治」がゆがめられ、特定の人物や政党による権力維持が優先されていることが原因だ。

こうした政治が生み出す不正義や国民の政治離れといった状況に対し、「声なき人々の声」を政治に反映させようと気炎をあげる世界運動がある。社会の底辺に追いやられた人々に声を与えようとする世界的な人民運動(popular movement)だ。土地を持たない農民、厳しい生活を送る漁業や農業の労働者、日雇い労働者、さらに路上生活者、社会の底辺や隅に追いやられた人たちをつなぐ世界連盟である。