バチカンから見た世界(107) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

他の宗派、宗教との出合いが豊かな対話の場になる――教皇がメッセージ

カトリック教会は、9月の最終日曜日(今年は9月26日)を「世界移民・難民の日」と定めている。第107回を迎える今年のテーマは『より大きな“私たち”に向かって』。ローマ教皇フランシスコが5月6日、今年の取り組みに向けてメッセージを発表した。

メッセージは、「神は私たちを、異なる、補い合う存在の男女として創造されたが、それは、私たちが世代を経るとともに、より大きな一つの“私たち”(人類家族)を構成するためだった」と始まる。教皇は「神が、三つの位格(父、子、聖霊)からなる一つの神(三位一体)という自らのイメージと、その三つの位格が交わり合っている姿に沿って、私たち(人類)を創造された」と続けた。

この意味するところは、神が「私たちを個人としてではなく、一つの民、人類家族として、諸国民の一つ一つを包摂する一つの“私たち”として創造された」ということだ。だからこそ、教皇は人間の救済史は、「一つの“私たち”で始まり、一つの“私たち”で終焉(しゅうえん)を迎える」と説明する。

だが、世界の現状は、神によって望まれたはずの一つの人類家族が分裂し、互いに傷つけ合い、面影を失っていると教皇は憂う。新型コロナウイルス感染症の世界的流行という危機に直面し、「(互いを)閉ざすことで、攻撃的な愛国主義や急進的な個人主義が、世界のみならず、カトリック教会の内部においてさえ、一つの“私たち”を崩壊させ、分裂させてしまう」との強い懸念からだ。