バチカンから見た世界(105) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
翌6日、教皇は、紀元前21世紀に建立された遺跡であるジッグラト(ウルの守護神である月神に捧げられた神殿)を望む場所で開催された「イラク諸宗教者の集い」に臨席。集いでは冒頭、『旧約聖書』の創世記、イスラームの聖典『クルアーン(コーラン)』の中にある、アブラハムに関する記述が朗読された。参加者は、祖師に思いを馳(は)せた。
次いで、ムスリム(イスラーム教徒)の男子大学生、キリスト教徒の男子大学生、洗礼者ヨハネを指導者とするマンダ教(サービア教)の女性信徒、同国南部ナッシリアの大学教授(イスラーム・シーア派信徒)の話に耳を傾けた。
この中で、二人の男子大学生は、大学で勉強を続けるために借金をして衣料品店を開業し、返済しながら大学の卒業を目指していると語った。「宗教が違っても共に活動し、友人となることはできる。私たちは戦争による暴力や憎悪を望まない。イラクの人々が私たちと同じような体験ができることを願う」と述べた。
マンダ教の女性信徒は、同国南東部バスラに住むマンダ教の信徒が、自らの生命の犠牲をいとわずに隣に住むムスリムの家庭を救ったことを紹介。「教皇のイラク訪問は、メソポタミアを尊重、評価している証しです。『あなたたち全てが兄弟』という今回の訪問のモットーを信じ、私は外国に亡命しないで、先祖が代々住むこの地に残る」と語った。また大学教授は、国内のカトリック教会やマンダ教の共同体、バチカンと協力し、ウルを中東3大宗教の巡礼地とするプロジェクトについて説明した。
この発表を聞いた教皇は、「祖師アブラハムと同じように、天を見つめ、私たちの宗教が生まれ、祝福された地から歩き出そう」と呼びかけた。さらに、「夜空に輝く星」は、神がアブラハムに約束した子孫(ユダヤ教徒、キリスト教徒、ムスリムを含む、唯一の神によって創造された全人類)であると説明。「私たちアブラハムの子孫と、諸宗教の代表者」は、兄弟姉妹(全人類)が天を見上げ、祈りを捧げるように尽くす役割を持つと訴え、「真の宗教性とは、(天の)神を崇拝し、(地上の)隣人を愛すること」と説いた。