バチカンから見た世界(100) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

次いでマッタレッラ大統領がスピーチ。「世界中で苦、貧困、恐怖を生み出す脅威に直面している現代において、友愛と協調の重要性」を強調し、「(コロナウイルスに対する)科学的治療とワクチンが、世界の全ての人に提供されるように」と訴え、「一人だけで救われる」というのはあり得ないことを暗に示した。環境保全に取り組み、「グリーン(緑)の総主教」と呼ばれるバルトロメオ一世は、「私たちを平和と正義へと誘(いざな)い、私たちが同じ暖炉を囲む一家族であると感じさせてくれる友愛を構築するためには、私たちの全てと、神によって創造された全ての存在が共生する、この共通の家(地球)の保全から始めなければならない」と述べた。

フランスのユダヤ教の指導者であるラビのハイム・コルシア師は、「私たちの友愛は、出会いの中、時には激しい議論の中で養われていかなければならないが、その修練は、自身を見いだすために他者を見いだすことを目的とすべき」と呼び掛けた。人類友愛文書高等委員会のモハメド・アブデルサラム・アブデッラティフ事務局長は、「コロナウイルスは、世界を分断させたグローバル化現象の終焉(しゅうえん)を告げた。われわれは今日、全ての人間の平等を促進する人類の友愛を根幹に置き、新しい世界化現象を進めていく時を迎えている」との、イスラーム教スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長のメッセージを代読した。タイエブ師はメッセージの中で、フランスで先頃、預言者ムハンマドの風刺画を使って生徒たちに表現の自由に関する授業を行い、イスラーム過激派によって殺害された中学教師の事件に言及し、「そのような罪深い犯罪はイスラームの戒律にも、預言者ムハンマドの教えにも反する」として非難した。

曹洞宗僧侶である峯岸正典師は、死刑囚であった島秋人の短歌を引用しながら、人間は善悪両面を持っており、同じ人間が戦争を起こし、平和を構築するとし、一人ひとりの人間の中にその選択が宿っていると語った。また、「死刑は人間の尊厳性を否定するものであると、深く確信している」との見解も明かした。シーク教のカラマルジト・シン・ディロン師は、「諸国民は、一つの大きな家族であり、貧困と不安をもたらす新型コロナウイルスに対し、世界レベルで感染対策を取らなければならないこの時こそ、(人類の)一致を維持していかなければならない」とアピールした。

最後にスピーチに立った教皇フランシスコは、「新型コロナウイルスは(われわれに)、同じ船に乗って航海する一つの世界共同体であるとの意識を教訓として与えた」と強調。それゆえに、「誰も一人では救われず、皆で救われる以外に進む道はないと思い起こさせた」と述べた。さらに、「人類が一つであるという意識から湧き上がる友愛は、諸国民の生活、共同体、政権担当者、国際首脳会議にも及んでいかなければならない」と語り掛けた。

スピーチを終えた諸宗教指導者たちは、新型コロナウイルスや戦争で亡くなった人を沈黙の内に哀悼。「ローマからの平和アピール2020年」の声明に耳を傾けた。平和アピールは、戦争、新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)、飢餓や食料不足、世界的な温暖化現象、発展の継続、移民、核の脅威、不平等といった諸問題は、「一つの国だけの問題ではない」との視点を提示し、「私たち皆が兄弟なのだ!」であり、だからこそ「戦争はもう止めよう!」とうたっている。最後に諸宗教指導者たちが平和の燭台(しょくだい)に灯を供え、ローマからの平和アピール文に署名した。