バチカンから見た世界(93) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
さらに同氏は、米国における宗教の多様性は豊かさの表れであるとの考えを示し、「生活困窮者や移民、社会の底辺で苦しむ人に対するさまざまな緊急支援、諸宗教による合同礼拝として具体的に実践され、形に表れている」と話した。ただし、そうした中で、「宗教が政治に利用されるのを防ぐ必要がある」と警告した。
同氏は、今年5月に発表された米調査機関「ピュー・リサーチ・センター」の調査に触れ、米政府の公的支援額が、トランプ政権の選挙基盤である、原理主義に近いキリスト教右派勢力の白人福音主義(エバンジェリカル)の組織に最も多く、次いでユダヤ教、カトリック教会であり、最も低いのはイスラームであると、多くの国民が信じていることを紹介した。こうした国民の認識からは、人々の分断や溝が生まれやすい。そのため同氏は、「米国の諸宗教者は、宗教の政治利用という問題についても対話していかなければならない」と語った。
また、「人種差別と新型コロナウイルスの問題が、キリスト教と諸宗教を大きな挑戦に導いた」と話し、(人種差別問題への取り組みが)「過去の記憶を浄化する」ことに加え、「共に祈り、分かち合うこと(連帯)へとつなげ、それにとどまることなく、社会正義が守られるようにしていく必要がある」と強調した。その実現に向けて、それぞれの宗教、宗教コミュニティーは「他のコミュニティーを非難するために、聖典を用いることがあってはならない」と呼び掛け、「職場、教育の場、祈りの場での平等が重要」と訴えた。同ウイルスの感染拡大によって起きた「アジア系住民に対する差別」を厳しく非難した。
最後に、WCRP/RfPが、ユニセフ(国連児童基金)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と協力して開催した諸宗教指導者対象のオンラインの集いを紹介。同ウイルスの感染防止のため、「それぞれのコミュニティーが守るべき衛生条件、人と人との間隔、オンラインでの礼拝のあり方、生活困窮者に対する支援などに関して実行を呼び掛けた」と報告した。
さらに、「人種差別問題を解決し、新型コロナウイルスに対処していくには、責任を持って対話・協力できる指導者の養成が不可欠であり、祈りと教育のプログラムを毎週オンラインで行っている」と説明。「米国内の人種差別に反対するため、6月20日にシカゴで500人を超える諸宗教指導者が共に行進したことは、特筆すべき諸宗教協力の事例である」と語った。