バチカンから見た世界(87) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
教皇が訪日に託した思い(1)
ローマ教皇フランシスコは訪日に、どんな思いを託したのだろうか? 教皇は11月25日、皇居で天皇陛下と会見した。
宮内庁によると、教皇は「9歳の時、両親が長崎、広島の原爆のニュースを聞き、涙を流していたことが、心に強く刻まれています。長崎、広島において、このような自分の気持ちをこめてメッセージを発出しました」(「朝日新聞」電子版11月25日付)と述べたと伝えられる。また、「水問題」が話題となった時、教皇は「次の戦争は水を巡る戦争であるとも言われています」との認識を示し、「重要なことは、人々が環境問題に強い問題意識を持つことだ」と述べた。
天皇陛下との懇談を終えた教皇は同日午後、首相官邸で安倍首相と会談し、その後、政府関係者や各国大使を前にスピーチした。この中で教皇は、自身が訪日に託した思いを総括し、「私の日本訪問が終わりに近づいてきた」と前置きしながら、「日本が国家として、より恵まれない人々やハンディを背負って生きる人々に対して、より強い感受性を示してきた」との評価の言葉を口にし、「三重(地震、津波、原発)の震災からの打撃を受けた人々の体験を聞いたことは、私にとって最も心を打たれた体験であり、彼らがくぐり抜けてきた困難に、私は感動した」と述べた。
また、「歴代教皇の教えに沿って、広島と長崎に投下された原爆による破壊行為が、人類の歴史で再び繰り返されることが絶対にないようにするため、必要な説得交渉を推進、促進し続けていくようにと、神に祈り、善意の人々に呼び掛けていく」と表明。民族間、国家間の紛争に対する効果的な解決策は、「人間にふさわしい唯一の武器である対話」であり、それによってのみ恒常的な平和を見いだすことができると主張した。この視点から、多角的な外交が進められ、核の問題に対処していく必要性を強調した。国連が採択した核兵器禁止条約への支持を表しながら、核抑止論を強調する米国、そして、それに追随する日本に対する明らかな批判と受け取れる内容だった。