バチカンから見た世界(75) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

歴史は繰り返すのか

年が明けると、バチカンではローマ教皇と同市国付きの各国外交団との間で、新年のあいさつが交わされ、教皇がスピーチの中で世界情勢について見解を述べることが恒例となっている。

バチカンは1月7日現在、183カ国と外交関係を樹立している。今年1月7日、教皇フランシスコはバチカンの使徒宮殿の一室で外交団と会見し、スピーチの中で、世界で予定されている今年の記念行事に言及。この中で特に、「国際連盟」創設の規約が、1919年に調印されたベルサイユ条約によって形作られてから今年で100周年になることについて述べた。

なぜこのことに触れるのか――教皇はその理由として、国際連盟が史上初の国際平和機構であり、世界が「現代的な多国間主義の外交政策を開始」した起点であったことを挙げる。武力での解決や強者による支配といった、各国の関係を戦争へと導く「屈服の論理」から脱却を目指したものだったからだ。しかし、国際連盟の試みは、早々にして「あの困難さ(屈服の論理)」に陥り、20年後には第二次世界大戦という破壊的な戦争へと突入してしまう。それでも、国際連盟創設の理念は、「国際連合の設立を通して、より強い形で(多国間主義の)道を開拓していった」と教皇は評価する。

多国間主義は、「困難と対立に満ちた道であり、常に効果的であるとは言えず、現在でも残念ながら紛争は続いているが、各国が出会い、共通の解決策を探す機会であることは否定できない」。そして、多国間主義が成功するためには、「交渉にあたる者の善意と誠意、忠実で真摯(しんし)な対応と妥協を受け入れる意思による」とも強調する。こうした要素が一つでも欠けると、「一方的な解決策が優勢となり、最終的には、強者が弱者を屈服させることになる」と指摘する。

国際連盟は、こうした理由によって危機に陥ったが、「残念ながら、今日においても、同じ態度が主要な国際機関を脅威に陥れている」とし、「全ての国の対話と出会いの場である、さまざまな国際機関の使命を危機に陥れる『愛国(自国至上主義)的傾向』が再び浮上することによって、多国間主義の構造全体が困難に直面している」との見解を表明した。