バチカンから見た世界(71) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

公開された書簡でユダヤ教の指導者たちは、「ここ3年間、あなたの言葉と政策が、白人至上による国家主義運動に拍車を掛け、台頭させた。あなた自身は殺人を悪と呼んだが、昨日の暴力は、あなたの影響力の到着点だった」と指摘し、大統領の言動を非難した。その上で、大統領に対し、「白人至上による国家主義を撤回する」「全ての少数派を標的として危険に陥れる行動をやめる」「移民と難民に対する、あなたの攻撃を中止する」ことのみならず、「全ての人の尊厳性を認め、慈悲ある民主主義の構築に挺身(ていしん)するように」と訴えている。

11月14日付の朝日新聞(電子版)は、「米連邦捜査局(FBI)は13日、2017年に国内でヘイトクライム(憎悪犯罪)が7175件報告され、16年に比べて約17%増えたと発表」と伝え、「人種や民族を理由とした憎悪犯罪が約6割と最多を占めた」と報じた。

欧州大陸においても、極右組織と結びついてポピュリズムの勢力が台頭しているが、同時に、ユダヤ人に対する「憎悪」むき出しの行為が多く報告されるようになった。世界ユダヤ人会議(WJC)の欧州代表で、イタリア北部ミラノのユダヤ人共同体の会長を長年務めたコブ・ベナトッフ氏は、米国と欧州のポピュリズムの共通項が、彼らの使用する「政治言語」(ヘイトスピーチ)にあると指摘する。トランプ大統領の「恥(品)という限界を超えた、敵に対する憎悪とののしり」が、人種差別主義者、特定人種の至上主義者、過激主義者たちに、反ユダヤ主義をも含む迫害につながる言葉を発してもいいのだと「勇気づけた」というのだ。欧州のポピュリストや至上主義者たちも、「公共の場でのスピーチで使う用語を、より悪い方向に変えていった」とし、世界的な広がりが危惧される。

過激で、憎悪に満ちたスピーチによって大衆を扇動するポピュリズムを、ローマ教皇フランシスコは、ヒトラーやナチズムに例え、非難する。