バチカンから見た世界(64) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

さて、事は、今年1月26日にさかのぼる。韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相はこの日、バチカンを訪問し、同国国務省外務局局長(外相)のポール・リチャード・ギャラガー大司教と懇談した。その際、バチカン外相を韓国に招待していた。それに応じてギャラガー大司教は7月4日から6日間、韓国を訪問し、康外相のみならず、カトリック信徒でもある文在寅(ムン・ジェイン)大統領、さらに約40人のカトリック信徒の議員たちと懇談し、北緯38度線にある非武装中立地帯を視察した。また、この訪韓中の週末には「平和と人権に関するカトリック・フォーラム」でスピーチを行った。

バチカン外相のギャラガー大司教と韓国の文大統領による会見(6月5日、ソウル)=写真・バチカン記者室提供

バチカン記者室は外相の訪韓の翌5日、文大統領とギャラガー大司教との会見に関する声明文を発表し、二人の会見が「友好的で密度の濃い内容だった」と明かした。声明文によれば、「大司教は、大統領にローマ教皇フランシスコからのあいさつと、朝鮮半島における平和と和解のプロセスに対する支援と祈りを伝達」。大統領と大司教は、「人道支援に関して、あらゆるイニシアチブを発揮し、青年たちに対する平和教育をいち早く進める」との合意に達した。

6日に康外相と懇談したギャラガー大司教は、「北朝鮮と韓国における外交関係(樹立)を図るためのバチカン外交の努力」を約束し、「この地域で和平と対話を進めるための努力は、今後とも、教皇フランシスコによって支援される」と伝えた。また、「現在に至るまでの、外交によって得られた結果には、勇気づけられるものがある」とも述べたとのことだ。

東西冷戦構造が残した「最後の城砦(じょうさい)」と呼ばれる38度線を訪れたギャラガー大司教は、「今は、歴史的に見て希望の時であり、教皇は、この動きを支持している。これから先、多くの挑戦が求められ、困難に立ち向かっていかなければならないだろうが、朝鮮半島の住民が自らの未来を築こうとする時に、常に見せ続けた決意は固く、キリスト教徒たちと世界の善意ある男女たちの祈りと支援によって、多くの良き出来事が、ここ数カ月のうちに実現されるだろう。私たちは、そのために祈る」(6日付Korea JoongAng Daily電子版)との見解を表した。

朝鮮半島の南北両国と世界にとって歴史的な地を、和平へと向かい始めたこの時期に訪れることは「まれな栄誉」と感謝の言葉を口にするバチカン外相。「教皇の名によって、この地が将来、希望と和解の地となっていくように祈る」と述べ、38度線を後にした。