バチカンから見た世界(57) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
原理主義から対話へ――サウジアラビアの改革路線
18世紀、クルアーン(コーラン)とスンナ(預言者ムハンマドの言行)だけを依りどころにする信仰に戻るべきだとするイスラーム改革運動が起こった。厳格な原始イスラームを復活させるこの改革運動は、ワッハーブ派によるもので、サウジアラビアは同派を国是としており、政治、社会、経済のあらゆる分野が厳格に管理されてきた。
「ハイア(別名・ムタワ=欧米では「宗教警察」と訳される)」が強大な権力を有し、かつて他宗教の信徒が宗教のシンボルを身につけることも、公の場で宗教儀式を執り行うことも禁じられていた。原始イスラームに戻ることを唱え、他宗派や他宗教を認めず、管理や取り締まりを強化してきたワッハーブ派の姿勢が、「アルカイダ」や「イスラーム国」を名乗る過激派組織の主張、イデオロギーに影響を与えたとの指摘は多い。
しかし、そのサウジアラビアが変わり始めたといわれている。改革の風が吹いているのだ。
特に、昨年6月にムハンマド・ビン・サルマン副皇太子が王位を継承する皇太子に選ばれ、国政を担当するようになってから改革のスピードが増した。サルマン皇太子は現在、陸海空軍、全ての国営メディア、そして世界最大の石油会社「国営サウジアラムコ」を動かす力を有するなど、これまでは国王にしか与えられなかった権力を持つ初の皇太子となった。
変革の一例としては、女性に、車の運転やサッカー観戦が許され、最近では、36年間にわたって閉鎖されていた映画館が再開した。現地から欧州に届いた写真の中には、映画館内で男女が同席した様子を写したものが入っている。「新しい時代の到来だ。われわれは世界に門戸を開放し、世界と共に歩み始めた」といった若者たちの声も聞かれると伝える。