バチカンから見た世界(54) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
イタリア政府は、大量の密航者を各自治体に配分する政策によって、この問題に対処しているが、各地の収容所はパンク状態にあり、地元住民との摩擦も絶えない。彼らの受け入れを拒否する自治体も増えてきた。欧州連合(EU)は、イタリアやギリシャに大量に漂着した難民や経済移民を、各国に割り当てて保護する決議を行っているが、実際には、かつての東欧諸国を筆頭に各国が難民や移民に対して国境を閉鎖しているのが現状だ。イタリア政府の再三にわたるEUヘの訴えにもかかわらず、欧州各国は、この21世紀を特徴付ける「人間の大量移動」という現象の前で、イタリアを見放してきた格好だ。
さらに、ドイツ主導のEUが、巨額の財政赤字を抱えるイタリアやギリシャに対し、あまりにも厳格な赤字削減政策を強要したため、両国の経済が著しく停滞し、貧困層の拡大を招いた。このため、「五つ星運動」と「同盟」は、欧州の統一構想や統一通貨に対して懐疑的な立場だ。ある意味では、今回の総選挙におけるポピュリズム政党の急伸は、EUの政策のひずみによってもたらされたとも言えるだろう。
かつての東欧のポーランドやハンガリー、さらにオーストリアでは、ポピュリズム政権がすでに誕生している。ただ、EUの基本条約である「ローマ条約」の調印国の中で、ポピュリズム政権を誕生させ得る選挙結果を出したのは、イタリアが初めてのケースだ。国内選挙で躍進したフランスの「国民戦線」、オランダの「自由党」、そして、「ドイツの選択肢」ともに、政権を担当するまでには至らなかった。
3月4日の総選挙で「五つ星運動」の得票率(下院)は32.68%(2013年の総選挙では25.55%)、「同盟」は17.37%(同4.08%)だった。だが、同盟の属する中道右派連合(「同盟」以外に「フォルツァ・イタリア」「イタリアの同胞」など)は、37%を獲得しており、「同盟」が中道右派連合の最大政党として主導権を握っている。これにより、ポピュリズム政党を主軸とする政権の誕生は、十分に可能なのだ。総選挙まで政権を担当し、選挙戦でポピュリズム勢力と真っ向から対立していった民主党は、13年の25.42%(下院)から18.72%へと後退した。