バチカンから見た世界(48) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

ローマ教皇を感動させた一枚の写真と核兵器廃絶

ローマ教皇フランシスコは1月15日、南米のチリとペルーを訪問するため、ローマのフィウミチーノ国際空港を飛び立った。両国訪問は22日までとなっている。離陸後、教皇は、1945年に原爆投下直後の長崎で米軍の従軍カメラマンが撮影した「焼き場に立つ少年」の写真カードを70人の国際同行記者たちに配布し、こう述べた。

「私は、この1945年に撮影された写真と偶然に出合った。(死んだ)弟を背負う少年が、原爆投下後の長崎において、火葬の順番を待っている写真だ。この写真を見て、私の心は揺さぶられた。『・・・(これが)戦争の結果だ』とのみ記すことをあえて考え、写真カードとして印刷し、(皆と)分かち合うことを望んだ。なぜなら、このような一つのイメージが、千の言葉よりも心をとらえるからだ。今回、あなたたちとも分かち合いたかった」

教皇が配布したカード(©バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」)

「あなたは、本当に核戦争を恐れているのか?」との記者からの質問に対して教皇は、「そうです。私は、恐れています。(核戦争の勃発に関し)私たちは、極限の状況下にあります。一つの事故によって、核戦争が勃発することも考えられます。従って、核兵器を廃絶し、核軍縮を推進するために努力しなければなりません」と答えた。

バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」は16日、「焼き場に立つ少年」の写真を1面に掲げ、教皇の核戦争に対する恐れを『核軍縮のために努力すべし』とのタイトルで報じた。また、イタリア有力紙の「コリエレ・デラ・セラ」と「ラ・レプブリカ」はともに1面に教皇と長崎の写真を掲載し、『“核戦争を恐れる”』『この子供たちを忘れないで――核戦争を恐れる』との見出しを付け、さらに2ページを割いて報じた。

ラ・レプブリカ紙は17日にも、『小型核、トランプ大統領の米国からの新しい脅威』と題する記事を2ページにわたって掲載。トランプ大統領は「核体制の見直し」(NPR)に基づき、「小型核」開発や配備の推進の意向を示しているが、それが「教皇フランシスコの公の場における警鐘を鳴らしめた」とコメントした。同紙によれば、小型核は開発期間として2年が必要で、トランプ大統領の決断は、1月末までになされるとのことだ。